紗世の目に涙が滲む。

――泣いちゃダメだ。泣いちゃダメ

紗世は嗚咽を堪え、化粧室へ急ぐ。

「……黒田さん、紗世……麻生を、あの時みたいに傷つけたくない」

「……傷ついているのは、由樹……貴方じゃない!? あの時も、今も」

黒田が結城の頭を撫でる、泣いている幼子を慰めるように。

「あれは貴方のせいではないし、貴方は何も悪くない」

黒田の手が結城の頭寄り添うように。

「でも……俺があの時……」

「由樹」

黒田が結城の手をギュッと握り、首を横に振る。

過去を振り返るなと言うように。

「由樹、ちょといいか?」

渡部が空気を読まずに、結城を呼ぶ。

「はい」

ガタンと椅子を鳴らし、結城は立ち上がり、ふらりよろめく。

黒田が結城を素早く支え、顔を見上げる。