前髪と眼鏡、マスクに隠れ、よくわからない顔。

だが体格も結城と、ほぼ同じ。

万萬は口が利けなくて、俺様な態度もとらない。

なのに――。

紗世は万萬に、結城の姿を重ねてしまう。

――仄かに香るグリーンノートのせいだ

紗世は、そう思おうとする。

万萬は要件を済ませると、長居を拒み詮索されるのを避けるように帰っていった。

「ん……万萬詩悠、掴み処がないな」

渡部が机に頬杖をつく。

11時。

結城はまだ編集部に現れない。

「麻生くん、ちょっと」

渡部が書類に目を落とし、紗世を呼ぶ。

「麻生くん、こことここ。入力ミス」

「すみません」

「麻生くん、由樹は何か変わった様子がなかったかい!?」

渡部は声のトーンを下げて訊ねる。

「昨日の由樹、表情が気になってね。秘書課の浅田くんとは、色々と確執が長いみたいだし」