万萬は紗世と渡部からスマホを受け取ると、両手にスマホを持ち数秒。


――空メール送信してください


それぞれにスマホを返しメモを見せる。


呆気にとらわれている紗世と渡部。


――万萬で登録しましたから


「あっ……」

我に帰り、各々空メールを送信する。

万萬のスマホがバイブする。

万萬は受信した空メールを素早く処理し、2人のアドレスを登録する。

「ありがとうございます」手話で伝える。

万萬の左手には、手首から指の付け根までサポーターが巻かれている。

「手、前も気になってたんだけど……」

紗世が遠慮がちに訊ねる。

――腱鞘炎なんです

サラサラと右手で書く見事な草書文字は、やはり万萬に似つかわしくないと、紗世は思う。