「はい」

万萬詩悠。
情報漏れから、1夜明けたばかりだ。

渡部の顔も黒田の顔も、緊張感が半端ない。

紗世の案内で編集部に入ってきた万萬は、挨拶の言葉代わりに深々と頭を下げる。

――編集長、概要とプロットを考えてきました


ソファーに所在無さげに座り、サラサラとボールペンで書いた文字を見せる。

編集長が連載時期を早める旨を伝えると、すぐさま「わかりました。頑張ります」と書いた文字でこたえる。

――「空と君との間には」という話を書いてみようと思います

万萬は前置きし、鞄からノートを1冊取り出し、机に広げた。

――主人公は吉行斎(よしゆきいつき)音大生。訳あって喋らない

万萬の広げたページを1通り、目にした編集長。


「これは!? ……」

感嘆の声を漏らす。