紗世が詩乃から、いつでもいらっしゃいと言われ、結城と共にマンションを出たのは。7時半キッカリ。

結城が車を運転しながら、「ゆっくり休めたか」と訊ねる。

「はい、とても細やかな方ですね」

「そう……助かってる」

結城は自分自身に言い聞かせるように、穏やかな表情をする。

会社最寄り駅付近。

結城は車を端に寄せ停車する。

「ここでいいか? 1件、寄る所があるから」

「あの……熱は大丈夫ですか?」

「微熱だ……昨日の件は話すなよ」

紗世は微熱と聞いても何処か信用できず、かといって確かめることもできずに車を下りた。

結城の居ない編集部は、何故か日が消えたように、寂しく感じられる。

昨日の騒動で部内の空気は、痛いくらい張りつめている。

10時過ぎ。
渡部に受付から「万萬さんとおっしゃる方が訪ねてきている」と電話が入る。