紗世は結城を襲った黒づくめの男が、結城の顔や体に一撃も加えていないのが、不思議でならない。

結城の姉、詩乃は結城の額に手を当て、熱を確かめ体を擦る。

結城と詩乃のやり取りは弟姉には見えない。

食事を終え、所在無さげに座っている紗世。

「麻生。姉貴がお湯を張るから、ゆっくり入れよ。着替えは……脱衣室に用意しておく」

結城は熱でふらつく体をやっと支え、紗世の後ろ姿に声をかける。

「結城さんは?」

「俺は朝風呂しか入らないんだ」

「熱は、体は……大丈夫ですか?」

「……ケガはしてないから」

「そうじゃなくて、あの……」

「何処も殴られてないから」

「あの……そうじゃなくて、その……」

「黒田さんか相田さんに、何か聞いた?」

「……結城さんは心臓が悪いって、相田さんに」