エレベーターに関する、あの発言をした訳のわからないイケメン。

紗世にとって、「結城由樹」の第1印象は最悪だった。

なのに、とても嫌とは言えない状況なのが、紗世にもハッキリとわかる。

今、ここで紗世が「嫌です」と、ひと言でも言おうものなら、苦虫を噛み潰したような顔で紗世を睨んでいる黒田芽以沙が、豹変し金切り声を上げ、ヒステリックに喚き散らすに違いないと……妄想する。

紗世は、それだけは勘弁してほしいと思う。

「凄いですね。頑張ります」

紗世は泣きたい気持ちを抑えて、笑顔を作る。

黒田芽以沙が「当たり前でしょ」みたいな顔で、鼻血のついた結城の手と顔を拭き「はい、これ洗っておいて」と、紗世に汚れたおしぼりを差し出した。

それにしても……と、紗世は給湯室へ向かいながら思う。

――たかが鼻血を出したくらいで、いつまで伸びているのかしら