蹴り飛ばされた黒い影は、鈍い音を立て地面に突っ伏し倒れ、その上に落下するように紗世の体が容赦なく着地する。

潰されたカエルのような呻き声が聞こえ、結城が虚ろな瞳に捕らえた光景。

それは……黒づくめのがっしりした体躯の男の上に、紗世が馬乗りになり、澱と座っている奇妙な姿。

紗世が覆面を剥がす。
男は口から泡を吹き、気絶している。
当分は起き上がらないに違いない。

「……凄い、スキルだな……早く……言えよ」

結城が地面に腰を下ろしたまま、紗世を見上げ辛そうな息遣いで言う。

「ゴホッゴホッ……ツッ」

胸に手を当て激しく咳き込む。
結城の体が震えている。

震える指が上着のポケットを探り薬を口に入れる。

鞄からスプレー式の酸素ボンベを取り出し、口に当てる。

「……タイマーの赤点滅が消えるかと思った……」


紗世に向けられた結城の顔は、消え入りそうなくらい頼りなく、でも優しく包むような笑顔だった。