梅川はベートーベンのような髪を、ボリボリと掻く。

「前後の文章から想像すると……この漢字ですよね」

結城は熱があることなど、微塵も感じさせない。


「結城くん、さすがだよ。君は察しが良くて助かるよ。ユーカリ社や他社の担当などでは、こうはいかない」

「どうも」

結城は遠慮がちにこたえる。

「高速タイピングで、結城くんの右に出る者はいないという噂だ」

「先生……吹聴しないでくださいよ、仕事に追われるのは嫌ですから」

結城は笑いながらも、原稿を打ち込んでいく。

目を背け放り出したくなるような、汚文字原稿だ。

打ち始めて1時間と経っていない。

なのに、談笑しながらA4用紙に10ページは越えている。

紗世には結城の、指の動きが見えない。

「ところで、結城くん」