梅川百冬は字が汚いと、自他共に認めるハードボイルド作家。

50代半ばの梅川はIT機器が苦手、いや音痴。

全く扱えない。
ミステリー作家、西村嘉行の比ではない。

原稿用紙のマスに不揃いの汚文字が、マスをはみ出し、修正と加筆だらけの原稿は、難解なパズルを解くより難しい。

だが……。
結城は、その原稿を高速タッチでパソコンに打ち込んでいく。

「えーーーっ!! こ、この原稿が読めるんですか~あ!?」

紗世が奇声を上げる。

「麻生、失礼だぞ。言葉を慎め。先生、申し訳ありません」

結城は紗世を睨み、梅川に穏やかな笑顔で謝罪する。

「先生……ここは、何とお読みするんですか?旧式の漢字ですよね」

「あ……っと、それは漢字を忘れてしまってね。ニュアンスで漢字を適当に書いてみたんだが……」