黒田が眼鏡を外しレンズを拭く。

「あっ」

紗世は黒田の顔が、眼鏡を外すと社長秘書の浅田よりも、ずっと綺麗だと気付く。

「麻生さん、あなたにまで何かあったら …… 由樹は立ち直れなくなるわ」

「黒田さん」

紗世の手を取り、黒田が痛いほど握りしめる。

「いいわね」

黒田は「イヤです」と言いかけた紗世を睨み、「いいわね」と念を押す。

紗世は根負けし、イヤとは言えず「はい」とこたえるしかなかった。

――黒田さんは結城さんをただ、心配しているんじゃない。
黒田さんは結城さんのことを……

紗世は胸が締め付けられるほど、切なくなる。

――結城さんは黒田さんのこと……

紗世は下手な勘繰りをしている自分を責める。

――わたしは……逃げない。結城さん1人置いて逃げない