紗世は時々、結城は霞を食べて生きているような気がする。

黒田と入った喫茶店は、会社ビルから5分と離れていない小さな店だ。

「由樹、最近あまり眠れてないみたいなのよね。眠剤ってわかるかしら?」

注文したランチを食べながら、黒田がポツリポツリと話す。

「時々、睡眠導入剤飲んでるみたい。嫌がらせが酷いらしいの。あなたは大丈夫?」

「わたしはとくに何も……結城さん、何も話してくれないし」

黒田が考えこむように手を止める。

「由樹は話さないと思うわ。あのね、私が担当してる先生から聞いた話なんだけど……」

黒田が声のトーンを下げる。


「先生の所に出入りしている業界人が、由樹の噂を吹聴してるらしいの。『結城由樹は原稿もらうために作家と寝てる』とか、『口述筆記って言いながら、ゴーストやってる』とか」