警察署を出たあと、現場となった路地裏に戻り、地面を這いつくばりながら必死に探した。けれどどこを探しても見つからない。強風で飛んで行ってしまったのかと思い、東西南北、二ブロック先まで探したけれど、徒労に終わった。

 バスの定期券も入っていたし、誰かに盗られたのかもしれないとゴミ箱も開けて回り、交番や警備員に聞きに行ったりもしたけれど、駄目だった。
 人間証明書を紛失したことを告げると、彼らは皆蔑みの目を向け、すぐに嘲笑し、掃除ロボットが回収した可能性があるからゴミ処理場を這いつくばったほうがいいと勧める。
 もしくは悪意ある者に拾われ、すでに処分されているかもしれないと話し、最後には皆「諦めろ」と言った。

 そしてわたしは住み慣れた街で立ち尽くし、絶望する。

 このままではわたしは収容所行きだ。そこがどんな所かよく知らないけれど、悪い噂は耳に入る。人間証明書を失くした。それだけなのに……。
 それくらい、わたしたち人間の地位は低い。この世はそうなのだ。この世を統治している人工知能たちが、そう決めた。