「……ミツハさま。……うまくいくかどうか分かりませんが、……私に出来る限りのことをさせてください。巫女を諦めるのは、それからにしたい……。私はミツハさまをお救いしたいと、誓っていたのです……」
新菜はミツハに言うと立ち上がった。さらさらと雨は続く。
「新菜さん、どこへ!?」
「御殿に行きます。あそこでしか、ミツハさまとの正式な契約は結べない」
「では、僕が跳びましょう。ミツハさま、お苦しみの所失礼いたします。その鱗を一枚頂きたい」
ナキサワの言葉に、ミツハは許す、と唸りながら低く言うと、左の爪の長い手の鱗を一枚抜いて、ナキサワの右の手の上に乗せた。それをナキサワが飲み込むと、傷付いた体はみるみる治り、新菜をひょいと抱えた。そのまま雨の降らせる雲の中を滑るように跳び、新菜とナキサワはあっという間に御殿にたどり着いた。鈴花が舞っているその舞宮に降り立つと、ナキサワは鈴花に体当たりし、鈴花の体を押し倒した。
その拍子に鱗珠が鈴花の手からころりと転げ落ち、あんなに轟いていた雷鳴がぴたりと止む。ナキサワはそのまま鈴花の胸に手を当てると、ミツハさま! と大きく叫んだ。
瞬間、その場にミツハの気配を感じ、ナキサワの手が鈴花の体に沈んだ。ぐっと何かを掴む仕草を見せたナキサワは、そのままずるりと腕を引き上げると、ミツハの龍の手のような右手がヤマツミの首を掴み、鈴花の体から分離させた。そのまま大きな龍の手で舞宮に放り出されたヤマツミは、首を絞められていた為咳込み、恨みがましい目付きでナキサワを見た。
「ナキサワ! 裏切ったのか!」
「天末主従の理からは逃れられませんよ、ヤマツミさま」
ナキサワは龍の手でヤマツミを追い込み、そして黙らせた。
一方、ヤマツミの憑依を解かれた鈴花が新菜に気付き、勝ち誇った顔をする。
「お義姉さま、遅かったんですのね。でももう、決着はついていてよ。雨が降ったでしょう。わたくしと、ヤマツミさまの勝ち。ヤマツミさまはわたくしを巫女姫としてくださっているの。ヤマツミさまとわたくしの関係は壊れない。天雨家の宮巫女はわたくしよ」
新菜は鈴花の言葉を聞かず、天帝に額づいた。
「大変遅れまして、申し訳ございません。今より、天雨神さまのお声を賜ります。まことのお言葉を、賜ります」
新菜はそう言って、深呼吸をして目を閉じた。
両腕を大きく広げる。想うのは、慈しみの笑み。凪いだ水面のようにいつもそこにあった笑顔。
「【我に願う。編んだ箍を外し、天雨神の名を封じた、記憶を今、脳裏に】」
唱えると、網膜に映っているかのような鮮明な景色が、脳裏に浮かんだ。
新菜はミツハに言うと立ち上がった。さらさらと雨は続く。
「新菜さん、どこへ!?」
「御殿に行きます。あそこでしか、ミツハさまとの正式な契約は結べない」
「では、僕が跳びましょう。ミツハさま、お苦しみの所失礼いたします。その鱗を一枚頂きたい」
ナキサワの言葉に、ミツハは許す、と唸りながら低く言うと、左の爪の長い手の鱗を一枚抜いて、ナキサワの右の手の上に乗せた。それをナキサワが飲み込むと、傷付いた体はみるみる治り、新菜をひょいと抱えた。そのまま雨の降らせる雲の中を滑るように跳び、新菜とナキサワはあっという間に御殿にたどり着いた。鈴花が舞っているその舞宮に降り立つと、ナキサワは鈴花に体当たりし、鈴花の体を押し倒した。
その拍子に鱗珠が鈴花の手からころりと転げ落ち、あんなに轟いていた雷鳴がぴたりと止む。ナキサワはそのまま鈴花の胸に手を当てると、ミツハさま! と大きく叫んだ。
瞬間、その場にミツハの気配を感じ、ナキサワの手が鈴花の体に沈んだ。ぐっと何かを掴む仕草を見せたナキサワは、そのままずるりと腕を引き上げると、ミツハの龍の手のような右手がヤマツミの首を掴み、鈴花の体から分離させた。そのまま大きな龍の手で舞宮に放り出されたヤマツミは、首を絞められていた為咳込み、恨みがましい目付きでナキサワを見た。
「ナキサワ! 裏切ったのか!」
「天末主従の理からは逃れられませんよ、ヤマツミさま」
ナキサワは龍の手でヤマツミを追い込み、そして黙らせた。
一方、ヤマツミの憑依を解かれた鈴花が新菜に気付き、勝ち誇った顔をする。
「お義姉さま、遅かったんですのね。でももう、決着はついていてよ。雨が降ったでしょう。わたくしと、ヤマツミさまの勝ち。ヤマツミさまはわたくしを巫女姫としてくださっているの。ヤマツミさまとわたくしの関係は壊れない。天雨家の宮巫女はわたくしよ」
新菜は鈴花の言葉を聞かず、天帝に額づいた。
「大変遅れまして、申し訳ございません。今より、天雨神さまのお声を賜ります。まことのお言葉を、賜ります」
新菜はそう言って、深呼吸をして目を閉じた。
両腕を大きく広げる。想うのは、慈しみの笑み。凪いだ水面のようにいつもそこにあった笑顔。
「【我に願う。編んだ箍を外し、天雨神の名を封じた、記憶を今、脳裏に】」
唱えると、網膜に映っているかのような鮮明な景色が、脳裏に浮かんだ。