「それでも私は……、ミツハさまをお慕いしております……。ナキサワさまが契約を結ぶには相手には不向きかと……」

俯く新菜に小さなため息が聞こえた。

「君は何故あれほどミツハさまが君に執着するか、理由が分かるかい?」

理由……。慈悲という以外の何があるのだろうか。

「我々にとって名は存在そのもの、つまり命だ。命を与えたという事は、命を握られているという事。君の力ならその命を消すくらい容易いだろう。それ故、ミツハさまは君を手元に置いておきたいと思ったんだ。君が思う恋情とは程遠い。ミツハさまのことは忘れるべきだ。それにね」

それに、そんな力を宿す君を、ミツハさまの所へは行かせられないんだよ。僕たちの水が枯渇してしまうからね。

ナキサワが辛そうに言う。

「だって、もともとは僕もヤマツミさまも、ミツハさまの雨に依存している。そんな主が脅されているのを、僕たちは黙って見過ごすわけにはいかないんだよ。だからここに居てくれ。君が姿を見せなければ、ミツハさまはご自分を脅かさない鈴花に名を教えて下さるかもしれない。君の力が強すぎたのが、悪かったんだ」

パリっと音がすると、庵の周りに透明な壁が現れた。ナキサワは新菜の首元を手繰って言う。

「鱗珠(これ)は、君がミツハさまを諦めた印として預かっていくよ。これをお返しすれば、ミツハさまも分かってくださる。君は新しい恋を見つけるんだ。例えば僕でも良い。人の郷に紛れて誰かと想い合うのでも良い。けど、ミツハさまは駄目だ。君がその力を持つ限り、ミツハさまは諦めるんだ」

ミツハに対してそんな力を揮うつもりはなかった。しかし力そのものが脅威だと言われてしまえば頷くしかない。それでも。

「ミツハさまご自身から正しく巫女を選んで頂ければ、私はそれで身を引くつもりでした」

たとえそれが鈴花であろうとも、ミツハが決めたことなら、新菜には受け入れることしか出来ないのだから。

自分の気持ち云々はこの際いい。ミツハさえ疑念が持たれなければ、それで良いのだ。

その為の、巫女選びをして欲しい。そう思っている。

「その言葉、正しくミツハさまにお伝えしよう」

ナキサワが姿を消して去る。新菜は庵に閉じ込められて、出られなくなった。