御殿には鈴花を始め、他の天宮家の宮巫女が揃っていた。突然現れた新菜を不信感露わに見ているのがありありと分かった。椅子に座った天帝も同様で、宮巫女たちの小さな声でかわされた話ではアマサト神が自らの宮巫女に伝えて新菜の話を聞くようにと促したらしい。天帝は神の声を聞くことが出来ないから、宮巫女の話を信じるしかないわけだ。新菜はそこに居るだけで周りを委縮させる雰囲気のある天帝を前に膝をつき、声を発した。

「陛下。天雨神さまからお声を賜れなくなった原因は私です。つきましては、私に御前舞を舞わせて頂けないでしょうか」

「おぬし、以前、天雨神さまと一緒に御殿に現れたな。何者だ。そこの娘が、おぬしが天雨神さまをたぶらかしたと言っておったが」

あからさまに新菜のことを疑っている視線にひるむことのないよう、新菜は奮える手をぎゅっと握って声を張った。

「私は、鈴花の前の宮巫女の娘です。私は確かに天雨神さまのお傍に居りましたが、真実、天雨神さまを懐柔しようなどという野心は持っておりません。これは天雨神さまが私を信じて下さった証です」

新菜は懐から鱗珠を取り出し、天帝に示して見せた。天帝が目を瞠ったのが分かった。

「おお……。それはまさしく天龍の鱗……」

やはり。天帝は神を視る目で鱗珠のことも分かるのだ。

「母は巫の巫女でした。私もその力を継いでいることを、天雨神さまが証言してくださいました。言霊の力を使った結果、私にその記憶はないのですが、陛下には神さまのおっしゃることを信じて頂けると思っております。どうか舞を舞わせてください」

深々と頭を下げる。ややあって聞こえたのは大きな息をつく音。

「そうであったか……。よかろう、舞を許す」

鈴花が新菜の申し出を聞いて一歩前に歩み出ると、天帝に頭を下げた。

「では、私も天雨神さまからはお声を賜れておりませんので、どちらが宮巫女として相応しいか、決着をつけるのはどうでしょうか。宮巫女は天宮家に一人。私か、お義姉さまか、はっきりさせましょう」

新菜を鋭く見つめてくる鈴花に、新菜は見つめ返すことが出来た。

……思えば、初めてのことだった。