御殿。新菜とミツハが去った後、取り残された鈴花に向かって帝が問うた。

「娘。同情を買うとは、なんだ」

帝が自分に話し掛けていることを知った鈴花は、顔を輝かせて訴えた。

「義姉が天雨神さまの同情を引き、贄にもならず、お傍に居るようです。義姉は人に取り入ることが上手です。お人の好い天雨神さまは騙されてしまったのかもしれません。それでわたくしの祈りを無視されるのですわ」

「なんだと、鈴花。それは本当か!」

腰を抜かしていた泰三も、鈴花の弁にころりと載る。鈴花の御前で天帝は眉のひそめたままだったが、これ幸いと鈴花は対案を考える。鈴を構え、舞を舞う。

「ヤマツミさま、ナキサワさま。義姉がミツハさまをたぶらかしているのです。ミツハさまのお目を開かせて差し上げないと、地は雨に飢えてしまいます。どうかお力をお貸しください」

鈴花に呼ばれて何処からともなくすうと御殿に現れたヤマツミはしばし考えて、それから、鈴花が直接声を届ければ良い、と言った。

「直接……? でもミツハさまは……」

「案ずるな。儂らがおぬしを導こう。鈴花、しばし体を貸せ」

ヤマツミはそう言うと、鈴花の体に乗り移った。依り代となった鈴花の体を使い、ヤマツミは鈴花の声で天帝に話し掛ける。

『おぬしも視たであろうが、天神たる天雨神が、ひとりの女子(おなご)に狂うておる。儂ら末の神は、地の民を天神の恵みへと導かねばならん。儂らがこの巫女姫と策を練ろう。天雨神をあの女子から解放して、雨を降らせよう』

言うだけ言ったヤマツミの憑依が解けた鈴花も直ぐにしゃんとして、二人が言うのだから間違いないと、天帝に向かってこうべを垂れた。

「天帝陛下。わたくしの末の神のお声を賜る力と末の神さまとで、ミツハさまのお目を開かせるよう努力いたします。今しばらくお待ちくださいませ。必ずや、わたくしがやり遂げてみせます」

鈴花の言葉に、天帝は瞑目するだけだった。