水の覇者、とヤマツミはしゃがれた声ではっきり言った。まるで思いもよらなかったが、そもそも自分は努力家であるし、そもそも巫女の才もあったのだと思っている鈴花は、その甘美な誘惑に直ぐ魅了された。

「儂が地の世界の水を統べることによって、おぬしは他の宮巫女たちの領域にも深く関り、儂の協力が欠かせないものにすれば、おぬしは全てを統べられる。我らは真に世界の覇者となるのだ」

土を潤すも乾かすも水次第。木が育つも枯れるも水次第。日が射すには雨を降らせる雲の有り無しが関係する。天神五柱のうち四柱を手中に収めれば、世界を統べることも不可能ではない。

(そうだわ、才あるわたくしが只の宮巫女で終わるわけがない。ヤマツミさまと結託すれば、わたくしは全ての宮巫女の頂点となれる。それこそこのわたくしに相応しい地位だわ)

ヤマツミの言葉に目を輝かせると、鈴花はヤマツミに、ええ、ええ、そうですわね、と応じた。

「思えばミツハさまはわたくしに対してお心を開いてくださらなかった。いつもそっけなく対応されたことが昨日のことのように思い出されます。それに比べるとヤマツミさまはわたくしの祈りをお聞き届けくださるばかりか、私の立場までお考え下さる。大変光栄です。ありがとう存じます」

二人がそう言葉を交わし、手を結ぶのを他人事のように見ていたナキサワが、言葉を発する。

「僕も、地の民の為に井戸の水が万全であるよう、最善を尽くそう。しかしそれは、君が立身するためではない。僕は神だからね。願われたことに対して、応じるのみだ」

「なんと、ナキサワ。おぬしも共に鈴花をもりたてようではないか。そして我らが水神の頂点となるのだ」

ヤマツミの言葉にナキサワは苦笑した。

「いや、僕には分不相応な望みです。とてもそうなれるとは思えない」

「……まあいい。しかしおぬしにも助力をしてもらわねばならぬ。おぬしの井戸が枯れぬのは、儂の堤に水があればこそじゃからな」

ヤマツミの言葉に、ナキサワは頷く。

「僕はヤマツミさまと一心同体だ。手足に使っていただくことは、構いません」

ナキサワの言葉に、ヤマツミは深く頷いた。