「花嫁さま、お寝間着はどの衣が宜しゅうございますか? 空の雲を編んだ衣に日差しの香りのする衣、風の流れのように軽やかな衣もございます。全て宮奥の品でございます」

新菜はくらりとめまいがした。今まで与えられていた着物といったら他の使用人のおさがりで、繕った跡も多く、また裾はすり切れたボロだった。チコが手にした衣はとても高級そうだし、とてもそんなものを身に着けて眠るなんて出来ない。

「い、いえ、チコさん。私はそんな素晴らしい衣をまとっていいような人間ではないのです。ごくごく普通の、下働きの娘ですから……」

新菜の言葉にチコは目を大きくした。

「花嫁さま、下界でのことはお忘れください。貴女さまはれっきとしたミツハさまの花嫁さま。堂々と衣をまとい、良き夢をご覧になり、そうして明日にはまたミツハさまとお話をして頂きたいのです。何せミツハさまはこの三年間、花嫁さまからのお呼びを毎日毎日、待ち望んでいらしたのですから」

チコの言葉に新菜は頬を赤くし、そして青くなった。

「……私、ミツハさまにとても失礼なことをしていたのですね……」

ミツハを呼ぶどころか、会ったこと自体も忘れている。無理と分かりつつも、思い出せたらミツハは喜んでくれるだろうかと考えてしまう。

「花嫁さま、ミツハさまもおっしゃいましたように、わたくしにも花嫁さまに非があるとは思えません。今は心の重りを取り払い、ミツハさまと過ごしてはいただけませんか」

チコの言葉にその通りだと思う。過去を悔いても時は戻らない。それより今、明日からでも自分に出来ることをしなければ。

「チコさん、そうですね。私、ここでミツハさまのお役に立てるよう、努力いたします」

新菜が言うと、チコがにっこりと笑った。

「明日には私の仲間をご紹介いたしましょう。彼もミツハさまをお慕いし、敬愛している者です」

「ありがとうございます。仲良くしていただけると良いのですが……」

新菜の危惧に、チコはご心配なく、と胸を叩いた。

「彼も、ミツハさまが幸せになってくださることを望んでおります。花嫁さまのお考えは杞憂に終わるでしょう」

チコはそう言って、今日はもうお休みください、と、新菜に衣を渡して部屋を去って行った。