「いいですか、新菜(にいな)。言葉には力が宿ります。その力を使うには貴女の大切なものを犠牲にします。重々考えて使うように。例えばこの約束も、お前が頷けば約束は力となり、お前を縛ります。貴女の今後の自由を奪うでしょうね。それは母に大きな犠牲を強います。それでも母は、お前にこの大切さを分かってもらわねばなりません。わかりますか?」

母親の言葉は、幼い新菜には少し難しかった。しかし、言葉に力があるという事だけは、分かった。……現に、母親の言葉を受けて、新菜は言葉を慎重に使おうと決心していた。そういう、作用があるのだろう、と、子供ながらに分かったのだった。不器用ながらにこくりと頷いて、母親を安心させる。

「良い子ね、新菜。お前はれっきとした天神(あまがみ)さまのお言葉を謹聴する巫の血を引く者。決して不用意に言霊を使わぬように」

「はい、おかあさま」

白く微笑んだ母親は床に伏したまま、そしてしばらくして命を終えた。新菜、五歳の時のことである。