真っ白な天井に真っ白なシーツ、飾り気の無いベッドの上で目が覚めた私の隣には、お母さんの姿があった。帰ってきた。私は私の身体に帰って来れたのだ。
後に聞いた話によれば、私は家で階段を踏み外し、落ちた先で頭を打って意識が無くなった状態で病院に運ばれたらしい。てっきり踏み切りで自殺未遂の状態だと思っていたから呆気に取られた。あの踏み切りは高校へ通う時に利用しているもので、毎日ここで飛び込んだら死ねるのにと思っていた記憶が私をあそこへ導いたのだろうと思う。
私は始めから死んでなどいなかった。身体から抜け出た魂のような状態になってなお、死ななければとあの踏み切りを彷徨っていた所に真っ黒な彼に見つかり、身体に戻して貰ったというのが、今回の一連の流れだった。
彼は最後に、死神との約束は絶対だと言っていた。つまりあの真っ黒な彼は、死神だったという事だ。
あの場所で魂のまま電車に飛び込み、死ねたのだと満足していたのなら、もしかしたらあのまま本当に死んでいたのかもしれない。彼が仕事が終わらないと言っていたのは、私の魂を片付けるのが仕事だったという事なのだろうかと、死神である事実を踏まえた今なら予想をつける事が出来る。
きっとあの死神は、私の魂を片付ける前に、私の決心がつくのを待っていてくれたのだ。毎回現れて、様子を見て、私に決まったのかと問うのはその為だった。身体に戻るのか、このまま死ぬのか。彼の後押しが無ければきっと今、私はここに居ない。
この件をきっかけに、お母さんとも友達とも向き合う勇気が持てた事で、私は今、毎日を一生懸命に生きている。決して楽しいだけでは無いけれど、死ぬ事の恐怖、死んだ後の後悔に比べたらなんて事はない。
ありがとうと、踏み切りを通る度に心の中で呟く。きっといつか、寿命を全うして満足のいく人生を終えたその時、また彼に会えたらいいなと思いながら、私は今日も生きていくのだ。
死に際の私 完