「結局おまえはどうしたいの?」
そんな私の心境を知ってか知らずか、それを問う彼の態度はとても面倒臭そうだった。
「どう、っていうのは……?」
「死にたいの? 死にたくないの?」
「……」
ストレートなその言葉。死にたい……そう、思っていた。今日までの私は、ずっと死にたいと思っていた。
死ななければと、今を変えるにはそれしか方法がないと、その手段に縋ってきた。死んでしまってそれで終わりでも良いし、怪我をして日常から逃げ出す手段になっても良い。それで心配されたらいいなとか、私が居なくなって後悔したら良いんだとか、そんな浅はかな考えで、死のうと思っていた。
……そう、浅はかな考えだと、今なら言える。今だから分かる。
「……死にたくなかった」
本当に死んじゃったんだと分かったら、その現実が受け止められなかった。もう私があの家に帰る事は無いし、友達と仲直りする事も無い。大人になる事もないし、お母さんにも会えない。もう一生名前を呼び合って笑い合う事も、悲しくて慰め合う事も、辛くて支え合う事も、何も無い。だって私は死んでしまったのだから。
誰かの何かの為じゃなくて、自分の為にもっと生きたかった。自分の為だけどそこにはきっと他の誰かも居て、馬鹿な私には想像も出来ない様な沢山の事を経験しながら、思い出を作って生きていきたかった。なんで私はそれが出来なかったんだろう。なんでこんなに弱いんだろう。私は馬鹿だ。馬鹿で、弱くて、情けない人間だ。
会いたい。みんなに会いたい。
お母さんに会いたい。
「じゃあ誓え。死ぬ為にここに来るな。分かったか?」
「……はい」
「一度決めた事は貫けよ。約束だ。もし破る様な事があれば、次はおまえの意思なんて関係なく処分するからな」
「はい……」
ジッと私の奥底を覗き込む様に、真っ黒な彼は言う。もう死んでるのに何を? とか、そんな事は何も頭の中に無かった。とにかく後悔で一杯だったから。これ以上の悪い事など無いと思った。またあの日々に戻れるのなら。また生きていく事が出来るのなら。あんなに怖い事、もう二度としないと誓う。
「想像しろ。おまえの帰る場所は家でも踏み切りでも無い。おまえの身体だよ」
「私の身体……」
「目を閉じろ。帰りたいと強く願え」
「……」
言われた通りに目を閉じて、ジッと願った。身体に戻りたい、生きたい、死にたくない、お母さんに会いたい——すると段々頭が重く、眠たく、なってきて——……
「死神との約束は絶対だ、破るなよ」
意識が途切れる間際に、男の言葉が聞こえたように思う。そうか、あの人は死神だったのか……と腑に落ちた所でハッと私は目を覚ました。