カンカンカンカン——

警告音が鳴り響き、遮断機が降りてくる。ここから先は危険なので入ってはいけません、そんな事は幼稚園児でもわかる事。でも今、ここへ一歩踏み出さなければならない。行くしかない。だってそうしなければ、私の毎日が続いてしまう。

行け、踏み出せ、もうそろそろ電車が来る。もう少し前に、もう少しギリギリの所で、電車が来た瞬間踏み出せるように、


「何してんの?」

「!」


急にかけられた声に身体は飛び上がる程驚いて、反射的に振り返る。だって今この辺りには誰も居なかったのだ。誰も居ない場所、誰も居ない時間、誰も居ないこの一瞬に全てを賭けたのに、それなのに。


この人は、一体いつからここに?


ブワッと背中を向けた踏み切りの方から風が吹き付ける。ガタンゴトンと線路と車輪の重なりあう音が、あっという間に遠ざかっていった。

今日も、失敗した。


「……なんでもないです」


遮断機が上がり、安全を考えるには近過ぎたそこから離れた。人に見つかってしまったらもう駄目だ。私の決心なんてそんなもの。そんなものだから、まだダラダラとここに居る。私は一体いつまでこんな事を繰り返すのか。

……もう帰らなければ。


「どこ行くの?」

「……帰ります」

「どこへ?」

「……」


興味も無さそうに尋ねる男に、無性にイラッとした。帰るのだから家に決まってる。また家に帰るしかない私への嫌味かと思ったけれど、この人がそんな事を知る由も無い。ただ私の虫の居所が悪いだけだ。

見ず知らずのこの人に答える筋合いも無いので、何も答えないまま元来た道へ引き返した。知らない彼の横を通り過ぎる。二十代ぐらいの黒髪に黒い服を着た男性だった。こんな夜中に高校生がこんな所にいる訳が無いので、大人の人にバレたのはまずいかなと頭をよぎったけれど、その人がそれ以上私に声を掛ける事はなかった。


……結局そんなものだ、なんて。

引き止められなくてホッとした分、これ以上の関心を寄せてもらえなかった事にガッカリした。何を求めていたのだろう、私は馬鹿で、面倒臭くて、意気地の無い人間だ。

だからこんな事をするのだ。こんな事をする以外の方法が見つから無いのだ。もう分かっている。


結局また、ここへ来るしか無いのだ。