――クロード・リヴィエールという男の生涯は、失敗と後悔に塗れたものだった。

 クロードは、世界でも五指に入る国力を持つと言われる、アルフィリア王国の貴族に生まれた。その中でも王国騎士団の水の聖騎士長を数多く排出してきた名門、リヴィエール伯爵家の次男として。

アルフィリアが魔法大国と呼ばれる所以は王国騎士団にある。

六つある魔法属性のうち主要四属性と呼ばれる土・水・火・風の属性を貴族であれば必ず一つ有しており――ゆえに王国騎士団は、騎士の持つ魔法属性で、大きく四つに分けられている。
土の騎士隊、水の騎士隊、火の騎士隊、風の騎士隊。

そして主要四隊から編成されている王国騎士団の中で、それぞれの隊の幹部とされるのが聖騎士だ。四隊のそれぞれの長が聖騎士長と呼ばれる。

クロードの父・リヴィエール伯爵は名門伯爵家の当主の名に恥じず――戦闘中に負った怪我で引退したものの、水の聖騎士長の地位を得た実力者だった。

年の離れた兄クロヴィスは若くして水の聖騎士に就任した俊英。水魔法の才を認められて分家から引き取られ、リヴィエール家の養女となった姉のノエルは、女性騎士としては異例の速さで出世を重ねた末、弱冠二十三歳で聖騎士に次ぐ地位――一級騎士の格を得た。

ゆえに無論、幼いクロード・リヴィエールも、優秀な兄と姉のように水の騎士になることを……ゆくゆくは、聖騎士となることを夢見ていた。

しかし結論から言えば、クロード・リヴィエールは水の聖騎士になることも、ましてや水の騎士になることさえもなかった。
 何故ならば。


 火水土風の魔法力は、原則――この国の貴族にしか発現しない(・・・・・・・・・・)


『平民の血が半分も混じっている貴様が私と同じリヴィエールを名乗り、私の妹であると名乗ることに、これ以上とない嫌悪を覚える』
 
 ……そう。
 クロード・リヴィエールは純血の貴族ではなかった。母は平民、リヴィエール家に仕える下働きの下女だった。
 ゆえに『俺』には、貴族の証とも言える、水魔法の才能がなかったのだ。

 一粒の水滴も出せない『俺』に、父は甚だ無関心で、兄は酷く冷淡だった。

『卑しい端女の息子が。我が伯爵家の子と認められたくば、その力の一端でも示してみろ』

 低俗な血。卑しい女の卑しい血。
 魔法力のない、劣等生物の血。

 母を蔑む言葉を、その血を引く自分を見下す言葉を、何度聞いてきただろう。

 ――この国の貴族は、貴族でない民のことを、同じ人間だと思っていない。

 クロード・リヴィエールの最愛の少女フェルミナ・ハリスは、平民の出身だったせいで殺された。義姉ノエルも、妾腹の弟を庇ったことで大逆の冤罪をかけられ、処刑された。


 だからこそ私は、私たちは、この国に革命を起こすことを望んだのだ。

 ……志半ばで斃れ、結局、何も変わらなかったけれども。