トラブルが剣を背負ってやってきた。
十一歳にしてはなかなか大柄な男だった。さすがに歳を考えれば少年と言うべきなのかもしれないが。
貴族の子息らしく身なりはいいが、スラムのガキ大将を思わせる雰囲気を纏っている。なかなか迫力があるな。
「誰だお前は」
……が、こいつは一年生である。
五年制のアカデミーには騎士服に似たデザインの制服があり、タイの色で学年を、腕章の色で寮(属性)を判別できるようになっている。
そしてこいつの、外れかけたタイは私達と同色の紫苑色――要は同学年だ。
王族や公子公女を除けば親の爵位の差など気を使わなくていいのがこのアカデミーだ。
そもそもうちの王国は、騎士団系の貴族は爵位ではなく、どちらかと言うと家長または次期家長の騎士団内の地位であらかた『扱い』が変わる。
こいつが伯爵家より上の爵位である侯爵家の子息であっても、先程のような無礼な態度を取られれば、お前呼ばわりをして一向に構わないのである……そもそもこいつが侯爵家の息子であるかどうかも不明なのだが。
「初対面からお前呼ばわりかよ」
「気に障ったか? それは悪かった」
目を合わせずに答える。
ジークレインは眉を寄せて男を見ているのだが、これはこいつの態度がどうというより、どこの誰だったかを思い出そうとしている顔だろう。
とっととこの場を去りたいところだが、離れたら離れたで後からまたうるさいのだろう。面倒極まりない。
「初対面で上から名を呼ばれたもので、ついな。それで『君』はどこの誰なんだ?」
「ウィンダム・アグアトリッジ。水の寮の新入生の中で、お前の次の成績で入学した」
「へえ……」
興味がない。
が、本当にこいつは侯爵家の子だったようだ。驚いたことに。
アグアトリッジ侯爵家と言えば、リヴィエール伯爵家の次あたりに水の聖騎士を多く輩出している騎士団系の貴族だ。爵位の高さも相まって、名門と呼んで差し支えない家門だろう。
となると、私が『クロード』であった時は、水の新入生の中では最も成績がよかった子供ということか。
当時の私はジークレインの背中しか見ていなかったため、ほとんど記憶にないが。
「改めて、クローディア・リヴィエールだ。よろしく」
言いながらちらりとジークレインを見れば、「ああ」という顔をしていた。どうやらジークレインは思い出したらしい。
本来ならばジークレインのように、高位の貴族の子弟の顔くらい覚えておくのが貴族の常識なのだろうが、私は生憎こいつほど頭の出来がよろしくない。興味のないことを覚えて脳の容量を使うのはごめん被る。
「それで、私に何の用だ? アグアトリッジ」
十一歳にしてはなかなか大柄な男だった。さすがに歳を考えれば少年と言うべきなのかもしれないが。
貴族の子息らしく身なりはいいが、スラムのガキ大将を思わせる雰囲気を纏っている。なかなか迫力があるな。
「誰だお前は」
……が、こいつは一年生である。
五年制のアカデミーには騎士服に似たデザインの制服があり、タイの色で学年を、腕章の色で寮(属性)を判別できるようになっている。
そしてこいつの、外れかけたタイは私達と同色の紫苑色――要は同学年だ。
王族や公子公女を除けば親の爵位の差など気を使わなくていいのがこのアカデミーだ。
そもそもうちの王国は、騎士団系の貴族は爵位ではなく、どちらかと言うと家長または次期家長の騎士団内の地位であらかた『扱い』が変わる。
こいつが伯爵家より上の爵位である侯爵家の子息であっても、先程のような無礼な態度を取られれば、お前呼ばわりをして一向に構わないのである……そもそもこいつが侯爵家の息子であるかどうかも不明なのだが。
「初対面からお前呼ばわりかよ」
「気に障ったか? それは悪かった」
目を合わせずに答える。
ジークレインは眉を寄せて男を見ているのだが、これはこいつの態度がどうというより、どこの誰だったかを思い出そうとしている顔だろう。
とっととこの場を去りたいところだが、離れたら離れたで後からまたうるさいのだろう。面倒極まりない。
「初対面で上から名を呼ばれたもので、ついな。それで『君』はどこの誰なんだ?」
「ウィンダム・アグアトリッジ。水の寮の新入生の中で、お前の次の成績で入学した」
「へえ……」
興味がない。
が、本当にこいつは侯爵家の子だったようだ。驚いたことに。
アグアトリッジ侯爵家と言えば、リヴィエール伯爵家の次あたりに水の聖騎士を多く輩出している騎士団系の貴族だ。爵位の高さも相まって、名門と呼んで差し支えない家門だろう。
となると、私が『クロード』であった時は、水の新入生の中では最も成績がよかった子供ということか。
当時の私はジークレインの背中しか見ていなかったため、ほとんど記憶にないが。
「改めて、クローディア・リヴィエールだ。よろしく」
言いながらちらりとジークレインを見れば、「ああ」という顔をしていた。どうやらジークレインは思い出したらしい。
本来ならばジークレインのように、高位の貴族の子弟の顔くらい覚えておくのが貴族の常識なのだろうが、私は生憎こいつほど頭の出来がよろしくない。興味のないことを覚えて脳の容量を使うのはごめん被る。
「それで、私に何の用だ? アグアトリッジ」