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「うひゃー、緊張しますねぇ!」

 晴れ渡る蒼穹の下。
 天井一面がガラス張りになっている見事な広間の中央で、サラが小声で楽しそうに言う。
 聖騎士団本部。 
 僕らは、聖騎士長様の執務室にいた。


「クルト」

 ^^不意に、穏やかな男性の声が、耳に届いた。
 
 すぐさま口を閉ざした僕らは、ほぼ同時にその場に跪く。
 ゆっくりと近寄ってくる衣擦れの音を聞きながら、じっとその場で待つ。

「素晴らしい活躍だったと聞いている。聖騎士就任まもなくで、難儀な任務を割り振ってしまったが、滞りなく済んだようだな」
「はっ。それはここにいるサラ・テンペスタの尽力があったからこそです」
「ああ、そうだな。……ありがとう、サラ。また騎士団に戻ってくれて、とても嬉しく思う」

 は? 
 
 そのとき。
 聞こえてきた言葉に、僕は目を見開いた。
 
 団に、戻る? 後輩……?

「お久しぶりでございます。ああ、本当に立派になられて」
「こうして言葉を交わすのは十年ぶりくらいだろうか。今回もよくクルトを導いてくれたと聞いている。突然無理を言ってすまなかった」
「いいえ~。久々にライオスといっしょに戦っている気分でしたから、楽しかったですよう」

 引退? 十年ぶり?
 というかなんでサラが、ライオス・シュタインベルク――僕の父の名前を?

「……それより、今回の騒動、まことに申し訳ございませんでした。弟にもきつく申し付けておきますので。今後同じようなことがないようにきっちり目を配っておけと」
「いいや、テンペスタ中将閣下はとてもよくやってくれている。閣下の尽力あってこそ、騎士たちが今軍役にとらわれず自由に動けているのだから」
「まあ聖騎士長さま……なんてお優しい」


 弟が(・・)中将……??


「何年経っても変わらない容姿だが、世界を回っても呪いの魔法の解き方はわからなかったか?」
「そうなんですよぉ。でも数十年もずーっとこの姿なので、もう死ぬまでこれでいいかなとか思ってます。ふふ」
「まったく。笑い事ではないだろう」
「でもぉ、身体の機能が衰えなくていいですよぉ? 時間を止める呪いの魔法」


 なんだって……? 


「なんにせよ、戻ってきてくれて助かる。これからもよろしく頼むよ。新たな騎士服もよく似合っているな」
「勿体ないお言葉です。
 元嵐の聖騎士、サラ・テンペスタ。これよりまた聖騎士団のお力になれるよう、精一杯務めますね!」
「頼もしいな」

 元、聖騎士――?
 あまりの事態についていけない僕に視線を向けて、幼女(?)が嬉しそうに笑う。


「いやあ、初めて会った時はほんとにびっくりしちゃいましたよ。だって、ほんとにそっくりなんですもん。

わたしの自慢の後輩――若い頃の、君のお父さん・ライオスに!」





「だってどう見ても幼女にしか見えないじゃないか!」 FIN