突然、上から声が降ってきた。 ……薬師の声だ。
僕はすぐさま身構え、剣の柄に手を伸ばす。
思ったより露見するのが早い。部屋を不在にしていたのはそう長い時間じゃなかったはずだが、やっぱり向こうもこちらの動向を気にしていたのだろう。
「お出ましですね。とりあえず、ふんづかまえてぼこぼこにしましょう」
「君は意外と過激だな……」
同感だが。
途端、真っ暗闇だった地下室に、わずかな光が差し込んでくる。おそらく隠し扉が開けられたのだろう。そして間を置かず、どたどたという足音とともに、見上げた階段が徐々に赤く照らされていく。これは灯火を持った薬師が下に降りてきている証だ。
僕は叫ぶ。
「薬師。隠し立てをせず正直に答えろ、登山客と騎士たちはどこだ!」
「答えると思うか!?」
叫び声とともに殺気、と、頭上に魔物の気配。
しかし、魔物本体が目の前に着地するよりも先に、こちらに迫るものがある……魔法か!
「ヒャッハァ! 間抜けどもめ!」
「くッ」
反射的に剣を横凪ぎに一振り。ほぼ同時に、振り抜いた剣が何かを斬る感触。
この感じは、植物……蔦か。蔦を操る魔法。薬師の手にした灯火のおかげで僅かに明るくなった地下の暗闇で、斬った蔦がすぐに再生するのが確認できた。
魔物の姿も見える。土色の肌に、緑色の髪をした人型の魔物だ。
――強い。
「やっぱり魔物と繋がっていたんだな、薬師!」
「だからどうした!」
魔物デモンに協力する人間は例外なく、王侯貴族であろうと捕縛され、罰を受けなければならない。
僕の氷魔法で氷漬けにして仮死状態にしてから、聖騎士団本部へ連れていく!
「ハッハァァ! よそ見をしている暇があるか騎士ども!」
「っ、サラ!」
しまった、と。その4文字が頭の中に浮かぶ。
優先すべきは魔物、罪人は後にすべきだった。
くそっ、守るべき新人に、強力な魔物の対処をさせようとするなど――、
……いや、だが、なんでだろう。
僕が薬師に刃を向け、サラが魔物を相手する。
それで構わないと、僕は無意識に思ってしまっていたんだ。
その分担の在り方に、まったく違和感を覚えなかった。
まるで同等以上の技量を持つ騎士と、任務にあたっているかのように。
「死ねッ、クソガキ!」
「おっ、最期の言葉としてはセンスがいいですねおにーさん。ごほうびに痛くないように殺してあげましょう」
ぶわり、と。
風が、いや、暴風が吹き荒れる。暗い地下室に風の通り道などないはずなのに。
……錯覚か。いや違う。
同僚たちがよく使う風の魔法よりもさらに荒々しい、そう、まるでこれは。
「【嵐よ。
風よ、竜巻よ、我が手に】」
踏ん張ってもなお吹き飛ばされそうな途轍もない暴風の中、彼女の詠唱は聞こえない。
しかし刹那、荒々しい風の音は、突如止む。
風――否、小さな嵐が、サラの手にした大振りの剣に、収斂されていく。
これは魔法剣だ。
上級騎士でも習得が難しいとされる、魔法と剣術を一体化させた技術――。
サラが地を蹴った。嵐の魔法を纏わせた剣を大上段に構えたまま。
次いで、魔物が迎撃のために伸ばした蔦ごと、首に向かって剣を振り下ろす。
そして――まるで、それが当たり前であるかのように。椿《カメリア》の花が、そのまま地面に落ちるがごとく、
ぼとりと、魔物の首が落ちた。
「――【そして罪人よ、花落つるを視よ】」
僕はすぐさま身構え、剣の柄に手を伸ばす。
思ったより露見するのが早い。部屋を不在にしていたのはそう長い時間じゃなかったはずだが、やっぱり向こうもこちらの動向を気にしていたのだろう。
「お出ましですね。とりあえず、ふんづかまえてぼこぼこにしましょう」
「君は意外と過激だな……」
同感だが。
途端、真っ暗闇だった地下室に、わずかな光が差し込んでくる。おそらく隠し扉が開けられたのだろう。そして間を置かず、どたどたという足音とともに、見上げた階段が徐々に赤く照らされていく。これは灯火を持った薬師が下に降りてきている証だ。
僕は叫ぶ。
「薬師。隠し立てをせず正直に答えろ、登山客と騎士たちはどこだ!」
「答えると思うか!?」
叫び声とともに殺気、と、頭上に魔物の気配。
しかし、魔物本体が目の前に着地するよりも先に、こちらに迫るものがある……魔法か!
「ヒャッハァ! 間抜けどもめ!」
「くッ」
反射的に剣を横凪ぎに一振り。ほぼ同時に、振り抜いた剣が何かを斬る感触。
この感じは、植物……蔦か。蔦を操る魔法。薬師の手にした灯火のおかげで僅かに明るくなった地下の暗闇で、斬った蔦がすぐに再生するのが確認できた。
魔物の姿も見える。土色の肌に、緑色の髪をした人型の魔物だ。
――強い。
「やっぱり魔物と繋がっていたんだな、薬師!」
「だからどうした!」
魔物デモンに協力する人間は例外なく、王侯貴族であろうと捕縛され、罰を受けなければならない。
僕の氷魔法で氷漬けにして仮死状態にしてから、聖騎士団本部へ連れていく!
「ハッハァァ! よそ見をしている暇があるか騎士ども!」
「っ、サラ!」
しまった、と。その4文字が頭の中に浮かぶ。
優先すべきは魔物、罪人は後にすべきだった。
くそっ、守るべき新人に、強力な魔物の対処をさせようとするなど――、
……いや、だが、なんでだろう。
僕が薬師に刃を向け、サラが魔物を相手する。
それで構わないと、僕は無意識に思ってしまっていたんだ。
その分担の在り方に、まったく違和感を覚えなかった。
まるで同等以上の技量を持つ騎士と、任務にあたっているかのように。
「死ねッ、クソガキ!」
「おっ、最期の言葉としてはセンスがいいですねおにーさん。ごほうびに痛くないように殺してあげましょう」
ぶわり、と。
風が、いや、暴風が吹き荒れる。暗い地下室に風の通り道などないはずなのに。
……錯覚か。いや違う。
同僚たちがよく使う風の魔法よりもさらに荒々しい、そう、まるでこれは。
「【嵐よ。
風よ、竜巻よ、我が手に】」
踏ん張ってもなお吹き飛ばされそうな途轍もない暴風の中、彼女の詠唱は聞こえない。
しかし刹那、荒々しい風の音は、突如止む。
風――否、小さな嵐が、サラの手にした大振りの剣に、収斂されていく。
これは魔法剣だ。
上級騎士でも習得が難しいとされる、魔法と剣術を一体化させた技術――。
サラが地を蹴った。嵐の魔法を纏わせた剣を大上段に構えたまま。
次いで、魔物が迎撃のために伸ばした蔦ごと、首に向かって剣を振り下ろす。
そして――まるで、それが当たり前であるかのように。椿《カメリア》の花が、そのまま地面に落ちるがごとく、
ぼとりと、魔物の首が落ちた。
「――【そして罪人よ、花落つるを視よ】」