灯りひとつない闇の中でも騎士はだいたい夜目が利くため、無理なく足を進めることができる。闇に紛れて人を襲う魔物に対処するには、新月の日でも地形を把握し攻撃をしなければならないからだ。
だからこそ、階段を下って、降り立った地下に灯火がなくとも、僕は容易に周りの様子を把握することができた。
今ここに人はいないようだが、ずっと使われていないというわけでもないようで、気配の名残がある。つい最近にここに誰かが入ったんだろう。
「クルトさま、わたしたちのいる壁際から、道の反対側に十数歩、歩いてみてください」
「え? わ、わかった」
一瞬戸惑ったが、言われたとおりの方向に足を進める。
少し歩いたところで目の前に障害物があることに気が付いた僕はそれに手を伸ばし……目を丸くした。
「これは、」
僕が掴んだのは、鉄格子だった。
格子のあいだに手をやれば、さらに奥に空間がある。手が感じる、鉄格子を越えた檻の中の空気は、地下室のそれよりも心做しか湿っており――また澱んでいて冷たかった。
「まさか、地下牢か……!」
「まちがいないですね。やはり薬師さまが人を攫っていたんでしょう」
「ということは、ここに囚われた客や騎士たちはやっぱりもう、」
「……さて、それはどうでしょうねぇ」
え、と僕は目を見張る。
「……そうじゃない、のか?」
「薬師さまが知性ある魔物と繋がっていると仮定した上で、ここにある地下牢に囚われた人間すべてを捧げていたとすると……あまりにここは魔物の臭いが薄すぎる。魔物が無関係の人攫いというのも不自然ですが、捕らえた人間すべてを献上していたというのもまた不自然です。となると」
淡々と分析を進めるサラが、自身も手を伸ばして鉄格子に触れた。
――そして。
「……なるほど、そういうことか。
聖騎士長さまがわたしを派遣した意味がやっと判りました」
静かに息を、呑む。
サラは冷たい瞳をしていた。耳に届いた呟きもひどく冷ややかで、纏う剣気は鋭く凍てついている。その剣気はまるで嵐の前の静けさ。
……本当に、彼女は、見た目通りの年なのか?
「そこで何をしている!」