「これは聞いてもいいのか迷っていたんだが、聞いてもいいかな」
「はい、なんでしょう」
食事を終えたあと、僕らは部屋には戻らず、薬師の目を盗んで調査を進めていた。
サラは先程から、いくつかの部屋に入っては床の音を叩いて反響音を確かめている。
「いや、君のような幼い少女が、どうして聖騎士になろうと考えたのか、気になってな」
「ああ……」
サラはほわりと雰囲気をやわらかくさせると少し目を伏せ、「よくある話ですよ」と言った。
「……わたしの家は、母の生家がいわゆる軍系の良家で、それなりに裕福だったんですが、ある日いきなり高ランク魔物に襲われたんです。
父母は外出していて無事だったんですが、弟とわたしを除き、きょうだいは全員殺されまして。さらにわたしがこれまたやっかいな呪いにかかってしまったんです。魔物の、呪いです。
わたしは呪いを解く方法を探るために騎士団に身を投じることにしたんです」
「……そう、だったのか……」
「さらに、身体には魔物の呪いが馴染んでしまっていたらしく……。
聖騎士長さまでも解呪は無理なんだそうで。こまったことです」
苦笑したサラが、再び視線を床に戻した。
彼女がこんこんと床を叩く音を聞きながら、僕は口を閉じる。
――彼女が聖騎士団に所属しようとした理由の一端が、少し見えた気がした。
少しだけ、気持ちが分かるような気がする。
僕も商家の出身でありながら騎士を目指したのは、幼い頃、友人が魔物に喰い殺されたからだ。
「……だが、ご両親は君が騎士団に入ることに反対はしなかったのか?」
「しましたよ。しばらくはしていましたけど、まあ、今はもう……両親も死んじゃったので。あ、魔物のせいとかじゃないですよ。老衰です。安らかな死に顔でした」
「そうか、それは………………」
――いや、まて。
老衰???
聞き間違いだろうか。
サラの両親の年で老衰で死ぬなんてそんなことあるか??
「あ、」
と、そこで、サラが床を叩くのをやめて軽く目を見開いた。
僕がどうした、と尋ねるよりも先に、サラがおもむろに床に手を伸ばし、
……そして、がたりと音がして。
「ビンゴですよ。クルトさま」
床にあった隠し扉が開き。
ひと、1人ずつならば入れそうな隙間から、地下へと続く階段が見えた。