「テレビも出版社も、それっぽいとこばっかり良い感じに切り取って使ってるだけだ、こんなのは」
「俺も思った」
「フツウに生きてる人間が、何でも上手く世を渡れるような人間が、春那 所以子と同じことを言いたいわけがない。共感できるはずがないのに」
「うん。俺もね、思ったよ」
「てか私はずーっと思ってるけど、こりゃあらすじが悪いよねぇ。無職無一文のクズ男だってよ、マヒロは」
「すごい複雑」
「んんん、私の書き方が悪かったのかな。マヒロをクズのつもりで書いてはいなかったんだけどさ」


あはは、ごめんね。君が笑っている。春那 所以子の特集を見ていた時の険しい表情なんかじゃない。俺の知っている、柔らかい笑みだ。



「ねえ真秀(マホロ)。共感っていうのはさぁ」


彼女が、何も映っていないテレビ画面を見てため息を吐いた。



​「共感って、人の気持ちとか考えに『私も同じだよ』って言うことを指すんだよ。共感度100%って信じられる? 日本は、世界はさ、十人十色とか個性とか、全く同じ人は世界には居ないって言うじゃんね。結局どっちなの? って感じだけど、私は圧倒的に後者だと思う。日々を生きていてふと気になったことがあったとして、それを文字に起こすのが私の趣味なわけね。人生の不条理を謳うだけの青春小説をたまたま評価されて、要項とかよく分からんままとりあえず応募したコンテストで受賞して、書籍化が決まってさ、世間に受ける感じに上手いこと編集される。ねえさっきの、聞いたでしょ。"人生挫折を繰り返す落ちこぼれ大学生:サエコが、見た目だけでは好青年だけどフタを開けたら無職無一文のクズ男:マヒロと出会って、世の中の不条理を話し合い、お互いの空っぽな人生を埋めていく"んだってよ。私と真秀は、物語の主人公になるとそんな風に捉えられるんだ。こんな風に騒がれるなんて思ってなかった。他人に評価されることがこんなに辛いなんて知りたくなかった。ねえ真秀、私はさ」


静寂に落ちた声は、嘆きに近かった。


「安っぽい共感をされたかったわけじゃないんだよ」