「あれ司さんがやった事だったの!?」

クラスメイトの素っ頓狂な声に、彼女は「そうだ」と頷いた。

「ていうか、霊術士って本当にいるんだ」
「都市伝説だと思ってた」
「まあ私は他の皆みたいに何か凄いビームとか撃てないがな」

クラスメイト達は「何か凄いビーム…?」と怪訝そうな顔をしたが、彼女は至って大真面目に話している。

このリアクションも無理は無い。ここは普通の公立高校なのだから。彼女が『自分が行けるレベルの中で最も偏差値が高く、かつ学費が安い高校を』と選んだ結果、現在の高校に落ち着いた。とりわけ『学費が安い』は重要である。故に彼女は彼女曰く「公立の貧乏校」に入学となった。

このような言い方をしてはいるが、彼女は学び舎を馬鹿にしている訳ではない。事実を述べているだけである。何せ『築100年以上の歴史を持つ伝統ある校舎』と言えば聞こえはいいが、その内実は近隣の住民はおろか生徒達からも『死霊牙城(ゴーストバベル)』と揶揄される程の、おんぼろ校舎なのだから。しかし制服が無く私服通学が可能。校訓は『自由・自律・自制』。校則は『他人に迷惑をかけない。社会のマナーとルールを守る』と至ってシンプル。その自由な空気に憧れ、難関ではありつつも志望校とする者が多い、変わってはいるが良き女子校である。

尤も、彼女の選択に例にもよって瓊子は文句を付けてきたが。何でも「うちの中で公立に通うなんて瑠子とあんただけ」「霊術が使えるのに霊術士専門の高校に通わないなんて本家の恥」との事だった。日頃より彼女を「まともな霊術も使えない」とこき下ろしているにも関わらずの発言だ。これがいわゆるダブルバインドである。

因みに、司一族はエリート揃いだ。例えば本家も分家も、高校は件の霊術士育成機関を備えた私立の難関校、大学は東大(時代によっては帝国大学)、もしくは東大と同レベルに通った卒業生ばかりである。璃子もOGである事は言うまでも無い。
時代もあるが、瓊子の意向により進学先を選択する自由すら無かった瑠子も、上記の高校を受験させられた。しかし成績が届かず、ワンランク下の公立高校に通う事になった。

「私の成績じゃ無理だって、最初からわかっていたけどね?」

当時を思い返した瑠子はこう言っていた。
なお、ランクが落ちるとは言っても、名を言えば「え?『あの』?」と返ってくるような、十分に優秀と言える高校だったが。しかし瓊子にとっては「公立如きに通うなんて、恥ずかしくて世間様に顔向けできない」との事らしい。

ここで全ての公立高校の在学生・卒業生及び関係者の皆さんに謝罪しなければいけない。本当にごめんなさい。瓊子は価値観も視野も恐ろしく偏狭な上に、一族こそが何よりの基準なのだ。