──ダメだ、わからん。
ユウナが台所で洗い物をしている音に耳を傾けながら、リビングのソファーで頭を抱えているのは、〝勇者〟こと俺である。
どうしてユウナが不機嫌になってしまったのか、さっぱりわからない。
確かにローレアは美人な先生だったんだけれど、それはユウナが怒る事なのだろうか? それならシエラだって──性格に難はあったけれど──普通に美人だったのだけれど。もちろん、俺とシエラが話していた事でユウナが怒った事などない。
ただ、ローレアについて漏らしたところを鑑みるに、原因はそこで間違いないだろう。彼女と長い時間過ごしたというのが何か気に食わなかったのだろうか。
そこで、ふとウェンデルに着いた初日に、砂浜でしたユウナとの会話を思い出した。
『でも、これからは私達にも似たような事が起こるかもね?』
『私、実は結構ヤキモチ妬いてたりして』
『私だって、ずっと我慢できるわけじゃないんだから』
ちょうどシエラが恋人のゲイルの周りにいる女に嫉妬していた、という会話をしていた時にユウナはこう言ったのだ。
──あっ。俺がローレア先生と今日ずっと一緒に過ごしてたってので嫉妬したのか。
ようやく彼女が不機嫌になった理由を察する。
確かに、立場を逆にして考えてみれば、わかりやすい。自分の知らないところで年上のイケメンと一緒に長時間二人きりで過ごしていた、とユウナから聞かされたら、きっと俺も気が気でなかっただろう。嫉妬で気が狂ってしまうに違いない。
多分、俺が鈍いっていうのはきっとこういうところなんだろうなぁ。でも……
──そっか。ユウナって、そういうところで嫉妬するんだ。なんか、すげー可愛いな。
そんな事を考えてしまう俺であった。
嫉妬されるのも度が過ぎればきっと苦痛なのだろうけども、ユウナから嫉妬されるのは何だか嬉しい。《《あちら》》にいた頃、他の男子に話しかけられているところや告白されているところを見たり聞いたりした時に嫉妬していたのは俺も同じだったからだ。自分と同じような気持ちを彼女が俺に対して抱いてくれているとわかると、何だか嬉しくなってくる。
とりあえず、原因がわかったのならすぐに動こう。俺の配慮が足りなかったのは事実だ。
「あ、あのさ。ユウナ」
洗い物を終えたユウナが、何とも言えない顔でダイニングに戻ってきたので、おそるおそる話掛けた。
「……なあに?」
ユウナはちらりとこちらを見てから、俺の座っているソファーの端っこに腰掛けた。
「勘違いしてる」
「勘違いって?」
「えっと……その、ローレア先生は確かに美人ではあるんだけど、全然俺にそういう気持ちはないっていうか。ちゃんと恋人がいるってのも、話してるし」
俺がそこまで言うと、彼女は小さく溜め息を吐いて、こう言った。
「……わかってるよ。エイジくんにその気がない事くらい」
「え?」
予想外の回答だった。
てっきり俺が下心を持っている、とまでは言わなくても、鼻の下を長くしていると勘違いされていると思っていたからだ。
「でも、何だか……凄く楽しそうにバスボム作ってたんだなっていうのが話から伝わってきて、私といるより楽しいのかな、とか、私とはそうやって何か一緒に作った事ないのにな、とか色々考えちゃって……それでヤキモチ妬いちゃってた」
ユウナはしゅんとして最後に「ごめん」と謝罪の言葉を付け加えた。
その謝罪の言葉に対して、俺は自身の胸中をぽそりと漏らした。
「……作るの、楽しかったに決まってんじゃん」
「え?」
俺の言葉に、ユウナが不安そうに顔を上げてこちらを見た。
「だって、ユウナが喜ぶところ想像して作ってたんだから……ユウナに喜んで欲しくて作ってたんだから、楽しいに決まってんじゃん」
「エイジくん……」
俺のその言葉に、ユウナが目を見開いた。
きっと俺の話ぶりが楽しそうだったから、彼女は俺がローレアと過ごすのが楽しいと勘違いしてしまったのだろう。
別にローレアといるのが楽しくなかったわけではない。ただ、俺が楽しげに話していたのは……ユウナがきっと喜ぶだろうと想像しながら作っていたからで、そんな気持ちが話しにも入ってしまっていたのだろう。
「あのさ、ユウナ……たぶんユウナが思ってるより、俺はずっとユウナの事が好きだと思うんだけど」
じゃなきゃこっちに来てからも、こんなに戦えなかった。ユウナを守らなければと思っていたから戦えたし、強くなれたのだ。
俺は彼女の横に座ると、バスボムの入った袋をもう一度彼女に手渡しする。
「とりあえず……これは引っ越し祝い的な、プレゼント。他のものが良かったら、そっちにするけど」
そう伝えると、ユウナはバスボム袋をひったくる様にして自らの胸に抱きかかえた。
「やだ……これがいい」
少し怒った様な表情を作ってから言って、顔を綻ばせる。
そこでようやく俺も安堵の息を吐いた。ご機嫌が直ったらしい。
「っていうかさ、俺が恋人を喜ばせる為にバスボムを作ってるっていうの、ローレア先生も知ってるから」
「そうなの?」
「ああ。それで、完成した時に『今夜はこれ使って一緒にお風呂入るの~?』なんてからかわれて……」
そこまで言ってから、言葉を詰まらせた。
やべ、何言ってんだ。本当に何言ってんだ、俺。
ユウナも顔を赤くして、俺から視線を逸らしてしまった。
──あー、やっちまったぁ!
やっぱり色々鈍い俺。絶対に病気だ。
完全に言うタイミングじゃない時に言ってしまった。今はそういうのは冗談でも言っていいタイミングじゃないんだけれど。
また機嫌を損ねてしまっただろうか、とユウナの方をおそるおそる覗き見ると──
「そうなんだ……」
ユウナはそう呟いて、顔を赤らめたままこちらを見ると、こう続けたのだった。
「じゃあ……一緒に入る?」
とんでもない提案が、彼女の方から出されました。
ユウナが台所で洗い物をしている音に耳を傾けながら、リビングのソファーで頭を抱えているのは、〝勇者〟こと俺である。
どうしてユウナが不機嫌になってしまったのか、さっぱりわからない。
確かにローレアは美人な先生だったんだけれど、それはユウナが怒る事なのだろうか? それならシエラだって──性格に難はあったけれど──普通に美人だったのだけれど。もちろん、俺とシエラが話していた事でユウナが怒った事などない。
ただ、ローレアについて漏らしたところを鑑みるに、原因はそこで間違いないだろう。彼女と長い時間過ごしたというのが何か気に食わなかったのだろうか。
そこで、ふとウェンデルに着いた初日に、砂浜でしたユウナとの会話を思い出した。
『でも、これからは私達にも似たような事が起こるかもね?』
『私、実は結構ヤキモチ妬いてたりして』
『私だって、ずっと我慢できるわけじゃないんだから』
ちょうどシエラが恋人のゲイルの周りにいる女に嫉妬していた、という会話をしていた時にユウナはこう言ったのだ。
──あっ。俺がローレア先生と今日ずっと一緒に過ごしてたってので嫉妬したのか。
ようやく彼女が不機嫌になった理由を察する。
確かに、立場を逆にして考えてみれば、わかりやすい。自分の知らないところで年上のイケメンと一緒に長時間二人きりで過ごしていた、とユウナから聞かされたら、きっと俺も気が気でなかっただろう。嫉妬で気が狂ってしまうに違いない。
多分、俺が鈍いっていうのはきっとこういうところなんだろうなぁ。でも……
──そっか。ユウナって、そういうところで嫉妬するんだ。なんか、すげー可愛いな。
そんな事を考えてしまう俺であった。
嫉妬されるのも度が過ぎればきっと苦痛なのだろうけども、ユウナから嫉妬されるのは何だか嬉しい。《《あちら》》にいた頃、他の男子に話しかけられているところや告白されているところを見たり聞いたりした時に嫉妬していたのは俺も同じだったからだ。自分と同じような気持ちを彼女が俺に対して抱いてくれているとわかると、何だか嬉しくなってくる。
とりあえず、原因がわかったのならすぐに動こう。俺の配慮が足りなかったのは事実だ。
「あ、あのさ。ユウナ」
洗い物を終えたユウナが、何とも言えない顔でダイニングに戻ってきたので、おそるおそる話掛けた。
「……なあに?」
ユウナはちらりとこちらを見てから、俺の座っているソファーの端っこに腰掛けた。
「勘違いしてる」
「勘違いって?」
「えっと……その、ローレア先生は確かに美人ではあるんだけど、全然俺にそういう気持ちはないっていうか。ちゃんと恋人がいるってのも、話してるし」
俺がそこまで言うと、彼女は小さく溜め息を吐いて、こう言った。
「……わかってるよ。エイジくんにその気がない事くらい」
「え?」
予想外の回答だった。
てっきり俺が下心を持っている、とまでは言わなくても、鼻の下を長くしていると勘違いされていると思っていたからだ。
「でも、何だか……凄く楽しそうにバスボム作ってたんだなっていうのが話から伝わってきて、私といるより楽しいのかな、とか、私とはそうやって何か一緒に作った事ないのにな、とか色々考えちゃって……それでヤキモチ妬いちゃってた」
ユウナはしゅんとして最後に「ごめん」と謝罪の言葉を付け加えた。
その謝罪の言葉に対して、俺は自身の胸中をぽそりと漏らした。
「……作るの、楽しかったに決まってんじゃん」
「え?」
俺の言葉に、ユウナが不安そうに顔を上げてこちらを見た。
「だって、ユウナが喜ぶところ想像して作ってたんだから……ユウナに喜んで欲しくて作ってたんだから、楽しいに決まってんじゃん」
「エイジくん……」
俺のその言葉に、ユウナが目を見開いた。
きっと俺の話ぶりが楽しそうだったから、彼女は俺がローレアと過ごすのが楽しいと勘違いしてしまったのだろう。
別にローレアといるのが楽しくなかったわけではない。ただ、俺が楽しげに話していたのは……ユウナがきっと喜ぶだろうと想像しながら作っていたからで、そんな気持ちが話しにも入ってしまっていたのだろう。
「あのさ、ユウナ……たぶんユウナが思ってるより、俺はずっとユウナの事が好きだと思うんだけど」
じゃなきゃこっちに来てからも、こんなに戦えなかった。ユウナを守らなければと思っていたから戦えたし、強くなれたのだ。
俺は彼女の横に座ると、バスボムの入った袋をもう一度彼女に手渡しする。
「とりあえず……これは引っ越し祝い的な、プレゼント。他のものが良かったら、そっちにするけど」
そう伝えると、ユウナはバスボム袋をひったくる様にして自らの胸に抱きかかえた。
「やだ……これがいい」
少し怒った様な表情を作ってから言って、顔を綻ばせる。
そこでようやく俺も安堵の息を吐いた。ご機嫌が直ったらしい。
「っていうかさ、俺が恋人を喜ばせる為にバスボムを作ってるっていうの、ローレア先生も知ってるから」
「そうなの?」
「ああ。それで、完成した時に『今夜はこれ使って一緒にお風呂入るの~?』なんてからかわれて……」
そこまで言ってから、言葉を詰まらせた。
やべ、何言ってんだ。本当に何言ってんだ、俺。
ユウナも顔を赤くして、俺から視線を逸らしてしまった。
──あー、やっちまったぁ!
やっぱり色々鈍い俺。絶対に病気だ。
完全に言うタイミングじゃない時に言ってしまった。今はそういうのは冗談でも言っていいタイミングじゃないんだけれど。
また機嫌を損ねてしまっただろうか、とユウナの方をおそるおそる覗き見ると──
「そうなんだ……」
ユウナはそう呟いて、顔を赤らめたままこちらを見ると、こう続けたのだった。
「じゃあ……一緒に入る?」
とんでもない提案が、彼女の方から出されました。