──もし、さっきの告白をあっちにいた頃にしていたら、どんな感じになっていたのかな?
戦いもなく死の恐怖もない世界で、気持ちを伝え合えていたら、俺達はどんな生活を送っていただろうか。
付き合って、放課後に教室で二人でたべったり、一緒に帰ってマックなんかに寄ったりして、休日には遊園地やショッピングにデートに出掛けたりしていたのだろうか。夏には夏祭りや花火大会に行って、冬にはクリスマスや正月を祝い合っていたのだろうか。
その光景を思い浮かべると、思わず瞼が熱くなった。
きっとそれは俺が望んでいた高校生活で、楽しかったに違いない。だが……もうその高校生活は、永遠に訪れる事はないのだ。
「ねえ、エイジくん」
互いに黙り込んでいていたかと思えば、ユウナが唐突にこちらを向いた。
その声色はやや明るかった。いや、何か吹っ切れたという感覚なのかもしれない。彼女はまるで買い物に行こうと誘うかの様に、こう提案したのだった。
「二人で青春、取り戻しちゃおっか」
どこか悪戯っぽく、挑戦的な笑み。
先程の寂寥感に満ちたものとも諦めたものとも違って、前向きな笑顔だった。彼女のこんな笑顔を見たのは、あちらでもこちらでも初めてだ。
「え? 青春を取り戻すって、どういう意味?」
言葉の意図がよくわからず、俺は訊き返した。
「そのまんまの意味だよ。異世界転移だかのせいで奪われちゃった私達の青春を、こっちの世界で取り戻すの。もちろん、文化も生活水準も違うから、全部は無理かもしれないけど……やれる事だけでもやってみたら、私達だけの青春を作れるんじゃないかなって」
「なるほどな……」
彼女の提案に、思わず感嘆の声が漏れた。
もしかすると、先程黙っていた時間に、ユウナも『あったかもしれない高校生活』を想像したのかもしれない。先程俺は『それはもう訪れない』と諦めてしまったけれど、彼女はそれを踏まえた上で、別の発想を導きだしたのだ。
〝青春を取り戻す〟という表現は一見すると少しおかしいように見えるが、俺達からしてみれば正しい表現である。俺とユウナは当たり前に享受できていたはずの『高校生としての青春』を、異世界転移だかのせいで奪われてしまったのだ。その青春の日々を、彼女はこの世界で取り戻そうと言うのである。
現実世界と全く文化や習慣が異なるこの異世界で、失った青春を取り戻す──電気やガス、水道がないこの世界でどれだけ取り戻せるはわからないけれど、確かに奪われたまま泣き寝入りするよりは気分が良さそうだ。
また、電気やガスがない代わりに、この世界には魔法がある。それを使えばできる事もあるかもしれない。
「それに……せっかく好きな人とも晴れて両想いになれたわけだし。私としては、エイジくんと青春したいなって思うんだけど」
顔を赤らめてこちらを横目で覗き見るユウナが可愛くて、思わずどきりと胸が高鳴る。
そうだった。俺達、さっき告白し合ったばかりなんだった。
付き合うかどうかというところまで言及はしていなかったけれど、あの返事は実質付き合うと言った様なものだ。
「どう、かな……? 私が勝手に言ってるだけだから、無理に付き合わなくてもいいよ?」
「い、いや! そんな事ない。いいと思う。面白そうだし……何より俺も、ユウナと青春してみたかったし」
俺が素直にそう言うと、ユウナは「じゃあ、決まりだね」と一面に満悦らしい微笑を浮かべた。
そして姿勢を正してお辞儀し、こう言った。
「ふつつか者ですが、宜しくお願いします」
「え? あ、えっと……謹んでお受けしま、す?」
唐突な言葉にしどろもどろになって返してみたものの、あまりにかっこがついていなくて、互いに同時に吹き出した。
「ねえ。これだとプロポーズみたいにならない?」
「あっ。確かにそうかも」
『ふつつか者ですが宜しくお願いします』『謹んでお受けします』のやり取りはプロポーズや結婚の挨拶だと聞いた事がある。それを考えると、急に恥ずかしくなってきた。
何を告白して早々にプロポーズしてるんだ、俺は。気が早いにも程がある。
「でも、エイジくんとなら……そうなってもいいかも」
「え⁉」
「なんてね。さ、早く行こ!」
ユウナの予想外の言葉に更に困惑していると、彼女はベンチから立ち上がって、こちらを振り返った。
笑顔を向けているが、その頬は赤かった。きっと、自分が言ってしまった言葉で恥ずかしくなったのだろう。俺も恥ずかしくなっている。
「行くって、どこにさ?」
俺が胡乱げに訊き返すと、ユウナは俺の手を引っ張って立ち上がらせて、嫣然としてこう言ったのだった。
「もちろん、青春を取り戻しに」
異世界に転移されて魔王を倒し、帰れなくなってどうしようかと思っていたら、今度は恋人ができて青春を取り戻す局面に入ったらしい。
魔王討伐から青春の奪還へと移行した俺達の異世界生活は、どうやらまだまだ続くようだ。
戦いもなく死の恐怖もない世界で、気持ちを伝え合えていたら、俺達はどんな生活を送っていただろうか。
付き合って、放課後に教室で二人でたべったり、一緒に帰ってマックなんかに寄ったりして、休日には遊園地やショッピングにデートに出掛けたりしていたのだろうか。夏には夏祭りや花火大会に行って、冬にはクリスマスや正月を祝い合っていたのだろうか。
その光景を思い浮かべると、思わず瞼が熱くなった。
きっとそれは俺が望んでいた高校生活で、楽しかったに違いない。だが……もうその高校生活は、永遠に訪れる事はないのだ。
「ねえ、エイジくん」
互いに黙り込んでいていたかと思えば、ユウナが唐突にこちらを向いた。
その声色はやや明るかった。いや、何か吹っ切れたという感覚なのかもしれない。彼女はまるで買い物に行こうと誘うかの様に、こう提案したのだった。
「二人で青春、取り戻しちゃおっか」
どこか悪戯っぽく、挑戦的な笑み。
先程の寂寥感に満ちたものとも諦めたものとも違って、前向きな笑顔だった。彼女のこんな笑顔を見たのは、あちらでもこちらでも初めてだ。
「え? 青春を取り戻すって、どういう意味?」
言葉の意図がよくわからず、俺は訊き返した。
「そのまんまの意味だよ。異世界転移だかのせいで奪われちゃった私達の青春を、こっちの世界で取り戻すの。もちろん、文化も生活水準も違うから、全部は無理かもしれないけど……やれる事だけでもやってみたら、私達だけの青春を作れるんじゃないかなって」
「なるほどな……」
彼女の提案に、思わず感嘆の声が漏れた。
もしかすると、先程黙っていた時間に、ユウナも『あったかもしれない高校生活』を想像したのかもしれない。先程俺は『それはもう訪れない』と諦めてしまったけれど、彼女はそれを踏まえた上で、別の発想を導きだしたのだ。
〝青春を取り戻す〟という表現は一見すると少しおかしいように見えるが、俺達からしてみれば正しい表現である。俺とユウナは当たり前に享受できていたはずの『高校生としての青春』を、異世界転移だかのせいで奪われてしまったのだ。その青春の日々を、彼女はこの世界で取り戻そうと言うのである。
現実世界と全く文化や習慣が異なるこの異世界で、失った青春を取り戻す──電気やガス、水道がないこの世界でどれだけ取り戻せるはわからないけれど、確かに奪われたまま泣き寝入りするよりは気分が良さそうだ。
また、電気やガスがない代わりに、この世界には魔法がある。それを使えばできる事もあるかもしれない。
「それに……せっかく好きな人とも晴れて両想いになれたわけだし。私としては、エイジくんと青春したいなって思うんだけど」
顔を赤らめてこちらを横目で覗き見るユウナが可愛くて、思わずどきりと胸が高鳴る。
そうだった。俺達、さっき告白し合ったばかりなんだった。
付き合うかどうかというところまで言及はしていなかったけれど、あの返事は実質付き合うと言った様なものだ。
「どう、かな……? 私が勝手に言ってるだけだから、無理に付き合わなくてもいいよ?」
「い、いや! そんな事ない。いいと思う。面白そうだし……何より俺も、ユウナと青春してみたかったし」
俺が素直にそう言うと、ユウナは「じゃあ、決まりだね」と一面に満悦らしい微笑を浮かべた。
そして姿勢を正してお辞儀し、こう言った。
「ふつつか者ですが、宜しくお願いします」
「え? あ、えっと……謹んでお受けしま、す?」
唐突な言葉にしどろもどろになって返してみたものの、あまりにかっこがついていなくて、互いに同時に吹き出した。
「ねえ。これだとプロポーズみたいにならない?」
「あっ。確かにそうかも」
『ふつつか者ですが宜しくお願いします』『謹んでお受けします』のやり取りはプロポーズや結婚の挨拶だと聞いた事がある。それを考えると、急に恥ずかしくなってきた。
何を告白して早々にプロポーズしてるんだ、俺は。気が早いにも程がある。
「でも、エイジくんとなら……そうなってもいいかも」
「え⁉」
「なんてね。さ、早く行こ!」
ユウナの予想外の言葉に更に困惑していると、彼女はベンチから立ち上がって、こちらを振り返った。
笑顔を向けているが、その頬は赤かった。きっと、自分が言ってしまった言葉で恥ずかしくなったのだろう。俺も恥ずかしくなっている。
「行くって、どこにさ?」
俺が胡乱げに訊き返すと、ユウナは俺の手を引っ張って立ち上がらせて、嫣然としてこう言ったのだった。
「もちろん、青春を取り戻しに」
異世界に転移されて魔王を倒し、帰れなくなってどうしようかと思っていたら、今度は恋人ができて青春を取り戻す局面に入ったらしい。
魔王討伐から青春の奪還へと移行した俺達の異世界生活は、どうやらまだまだ続くようだ。