長旅で疲れていた俺達──途中の村では精神的に疲れた事もあって──は部屋に戻るなりすぐに眠りに落ちて、気が付けば朝になっていた。
俺とユウナはそれぞれ朝の仕度を終えると、ロビーで待ち合わせた。今日の目的はもちろん、新居探しだ。
ちなみに、ユウナの御所望もあって、着ている服は制服である。
いくら《《あちらの世界》》の服だとは言え、それほど頑丈な服ではない。あまり制服ばかり着ていると傷んでしまうのではないかと苦言を呈したのだが、「魔法があるから大丈夫だよ」とあっさり切り返されてしまった。
最近使っているところを見ていなかったせいで忘れていたが、ユウナは〈修復魔法〉が使えるのだ。〈修復魔法〉はその名の通り壊れた道具や防具、武器を元の状態に戻してくれる生活魔法の一つだ。原型を留めない程ボロボロになっていれば修復できないが、破れたり穴が空いたりする程度であれば修復できてしまうのである。
魔王討伐時代、俺とゲイルは前衛でしょっちゅう鎧を壊していたので、彼女の〈修復魔法〉には世話になったものだ。聖剣バルムンクは壊れる事はないが、ゲイルの武器は何度か壊れてしまっていたので、彼の場合は武具共に彼女に直してもらっていた。
「正直コスプレ感強まるからあんまりやりたくないんだけど、面倒事避ける為にバルムンクだけは持って行くからな」
俺は彼女にそう伝えると、バルムンクの鞘のベルトを伸ばして剣を背負った。
制服に帯剣(しかも背中)という、何とも恥ずかしいコスプレ野郎の出来上がりだ。もう、鏡で見てみると頭痛がするくらい厨二病感が凄い。
「なんだかアニメに出てきそうな主人公みたいでかっこいいよ?」
制服姿のユウナが、同じく制服姿で帯剣している俺を見てくすくす笑った。
「そこで笑ってなかったらその言葉を素直に受け止められるんだけどなぁ」
「あ、ごめんごめん。そうじゃないの。格好が変だから笑ってるわけじゃないよ?」
俺がジト目で彼女を見つめると、顔の横で手を横に振った。
「じゃあ、何だよ」
ジト目のまま更に追及してみると、ユウナは顔をほんの少し赤らめて、こう言った。
「……本当に、かっこいいなって思っただけだから」
俺の心臓、一瞬で打ち抜かれる。
いや、それは反則だ。ずるい。そんな事を言われてしまったなら、この格好でならざるを得ないじゃないか。
でも、確かに言われてみれば、学園モノのファンタジーでは制服と剣は結構ある組み合わせだ。そう考えると、確かにちょっと主人公ちっくなのかもしれない
──なんだか、色々順応し過ぎじゃないか、俺。
思ったより適応力のある自分に思わず驚いてしまう。
兎角、そういった服装に関する問題はさておき、この聖剣バルムンクの存在は俺達がこの世界で生きていくには必要不可欠だ。
俺達には謂わばこの世界での籍がない。この聖剣、そしてユウナにとっては聖衣が籍であり、身分証明書なのである。
例えば俺達が死んだ時にこれらの聖武具がどうなるのかは知らない。聞かされていないし、報奨金を貰った時に返還を要求されなかったという事は、聖武具そのものが俺達と同時に存在している──俺達が消えればこれらも消える──のか、自動的に王宮に戻る様になっているのか、或いは一旦持ち主たる英雄が召喚されれば彼らでさえもどうもできないかのいずれかだろう。
俺が王様の立場だったら、こんな危なっかしいものを持たせておいて反旗でも翻されたら困るので、魔王討伐が終わればとっとと取り上げてしまうだろう。だが、それをやらなかったという事は、俺達が生きている間は彼らにもどうする事もできないのかもしれない。
兎角俺達はこうしてでっかいながらも高性能な身分証明書を持ち続けられるのは正直有り難い。これがあるだけで勇者と認識してもらえるので、色々と便利なのだ。
それに、前みたいに聖剣を持っていない事でならず者達に絡まれて面倒事を巻き起こしたくないし、新たに住む町で騒動を起こしたくない。物事を穏便に過ごす為にも、聖剣バルムンクを帯びておくのは大切なのである。
「じゃあ、行こっか」
「ああ、わかった──って、ちょっと待った」
そのまま宿屋を出ようとするユウナを、慌てて止めた。
俺とユウナはそれぞれ朝の仕度を終えると、ロビーで待ち合わせた。今日の目的はもちろん、新居探しだ。
ちなみに、ユウナの御所望もあって、着ている服は制服である。
いくら《《あちらの世界》》の服だとは言え、それほど頑丈な服ではない。あまり制服ばかり着ていると傷んでしまうのではないかと苦言を呈したのだが、「魔法があるから大丈夫だよ」とあっさり切り返されてしまった。
最近使っているところを見ていなかったせいで忘れていたが、ユウナは〈修復魔法〉が使えるのだ。〈修復魔法〉はその名の通り壊れた道具や防具、武器を元の状態に戻してくれる生活魔法の一つだ。原型を留めない程ボロボロになっていれば修復できないが、破れたり穴が空いたりする程度であれば修復できてしまうのである。
魔王討伐時代、俺とゲイルは前衛でしょっちゅう鎧を壊していたので、彼女の〈修復魔法〉には世話になったものだ。聖剣バルムンクは壊れる事はないが、ゲイルの武器は何度か壊れてしまっていたので、彼の場合は武具共に彼女に直してもらっていた。
「正直コスプレ感強まるからあんまりやりたくないんだけど、面倒事避ける為にバルムンクだけは持って行くからな」
俺は彼女にそう伝えると、バルムンクの鞘のベルトを伸ばして剣を背負った。
制服に帯剣(しかも背中)という、何とも恥ずかしいコスプレ野郎の出来上がりだ。もう、鏡で見てみると頭痛がするくらい厨二病感が凄い。
「なんだかアニメに出てきそうな主人公みたいでかっこいいよ?」
制服姿のユウナが、同じく制服姿で帯剣している俺を見てくすくす笑った。
「そこで笑ってなかったらその言葉を素直に受け止められるんだけどなぁ」
「あ、ごめんごめん。そうじゃないの。格好が変だから笑ってるわけじゃないよ?」
俺がジト目で彼女を見つめると、顔の横で手を横に振った。
「じゃあ、何だよ」
ジト目のまま更に追及してみると、ユウナは顔をほんの少し赤らめて、こう言った。
「……本当に、かっこいいなって思っただけだから」
俺の心臓、一瞬で打ち抜かれる。
いや、それは反則だ。ずるい。そんな事を言われてしまったなら、この格好でならざるを得ないじゃないか。
でも、確かに言われてみれば、学園モノのファンタジーでは制服と剣は結構ある組み合わせだ。そう考えると、確かにちょっと主人公ちっくなのかもしれない
──なんだか、色々順応し過ぎじゃないか、俺。
思ったより適応力のある自分に思わず驚いてしまう。
兎角、そういった服装に関する問題はさておき、この聖剣バルムンクの存在は俺達がこの世界で生きていくには必要不可欠だ。
俺達には謂わばこの世界での籍がない。この聖剣、そしてユウナにとっては聖衣が籍であり、身分証明書なのである。
例えば俺達が死んだ時にこれらの聖武具がどうなるのかは知らない。聞かされていないし、報奨金を貰った時に返還を要求されなかったという事は、聖武具そのものが俺達と同時に存在している──俺達が消えればこれらも消える──のか、自動的に王宮に戻る様になっているのか、或いは一旦持ち主たる英雄が召喚されれば彼らでさえもどうもできないかのいずれかだろう。
俺が王様の立場だったら、こんな危なっかしいものを持たせておいて反旗でも翻されたら困るので、魔王討伐が終わればとっとと取り上げてしまうだろう。だが、それをやらなかったという事は、俺達が生きている間は彼らにもどうする事もできないのかもしれない。
兎角俺達はこうしてでっかいながらも高性能な身分証明書を持ち続けられるのは正直有り難い。これがあるだけで勇者と認識してもらえるので、色々と便利なのだ。
それに、前みたいに聖剣を持っていない事でならず者達に絡まれて面倒事を巻き起こしたくないし、新たに住む町で騒動を起こしたくない。物事を穏便に過ごす為にも、聖剣バルムンクを帯びておくのは大切なのである。
「じゃあ、行こっか」
「ああ、わかった──って、ちょっと待った」
そのまま宿屋を出ようとするユウナを、慌てて止めた。