変わってしまった自分達を受け入れて、失ってしまった青春(もの)は二人で取り戻そう──ユウナとのファーストキスの中でそんな決意をしてから、数日後。俺達の視界の前には、青い空と海が広がっていた。
 空と海の紺碧を背景に、白い大理石で出来た白壁とオレンジ色の瓦屋根が連なる町並みが見える。どことなく真珠の様に思えなくもない様な美しさで、その町は見る者を惹き付ける魅力があった。そして、俺達の知る江ノ島に似たような形状の島が、海の上にそっとその身を佇んでいる。

「着いたよ、ユウナ」
「わぁ……!」

 俺の言葉と共に、隣のユウナから感嘆の声が漏れた。
 俺達の視界の前にあるのは、聖王国プラルメスの南方に位置する小さな漁港──港町ウェンデルだ。
 港町ウェンデルは何十年か前は海洋貿易都市として栄えていたらしく、町を覆う様に高い城壁が建てられていた。如何にも中世ヨーロッパっぽい雰囲気の町で、やっぱり見ているだけでテンションは上がる。

「なんか、江ノ島とヨーロッパを足した様な景観だよな」

 俺達は町の外の浜辺に馬車を停めて、島と町を眺めていた。町の中に入るより、外の浜辺の角度から見る島が七里ヶ浜から見る江ノ島の様に見えるからだ。
 橋から先の海の方を見れば江ノ島、橋から手前の町を見るとヨーロッパ……そんな感じの町が、ウェンデル。町の中は中で綺麗なのだが、外から見た景観というのも独特で美しい。

「エイジくん、前来た時も同じ事言ってた」
「そうだっけ」
「そうだよ」

 そんなやり取りをしながら二人で笑うと、ユウナは俺の肩に頭を乗っけてくる。
 初めてのキスをして以降、彼女はこうして俺に甘えてくる様になった。距離感も少し変わった様に思えて、以前よりも身体の距離も近付いた様に思う。同じパーティーで戦う仲間、或いは元クラスメイトといった関係から、本当の意味で恋人になったのだなと思わされる瞬間だ。

「ここに来たの、いつぶりだっけ?」
「もう一年以上前になると思うよ?」

 そんな会話をしながら、初めてウェンデルに来た時の事を思い出す。
 以前は魔法学院の学長に会いに来るのが目的で、あまり街を見て回る事はなかった。それ以来となるので、今回は二度目の訪問となる。この町に着たのは一年以上ぶりのはずなのだけれど、それでも久々だという感覚がしないのは、どことなくあの島が俺達の知る場所と似ているからかもしれない。
 一緒に魔王討伐に参加してくれた女性魔導師・シエラがウェンデル魔法学院の出身で、前回は秘密の奥義とやらを学長から伝授してもらう為に訪れたのだ。
 学長から極大魔法を授かったシエラはその力を存分に振舞い、俺達の冒険の大きな助けとなってくれた。彼女の魔法がなければ、魔王討伐は叶わなかっただろう。