「やれやれ、のんびりと青春を取り戻すって話はどこいったんだかな」
馬車を御しながら、嘆息と共にぼやいた。
今俺達は、村人達から自称義勇軍のアジトの場所を聞くや否や、ユウナと共に連中の討伐へと向かっていた。
争いに、戦い……俺の思い描いていた青春スローライフと全然違うのだけれど、一体どういう事だ。
「自分から言い出したくせに」
気怠そうにぼやく俺を見て、ユウナはくすくすと可笑しそうに笑っていた。
「だって、仕方ないだろ? あんな光景見せられて、見捨てられるかよ」
もう一度溜め息を吐いてから、ユウナに反論する。
ああして困っている人を見て自分達の青春を優先できる程、独善的な人間ではなかった。きっと、自己嫌悪に陥って青春どころではなくなっていたはずだ。
それはユウナだって同じはずで、俺が言い出していなければ彼女から同じ事を提案されていたであろう事は間違いない。
「知ってる。っていうかさ……私達がこういう性格じゃなかったら、きっと魔王まで辿り着けなかったんじゃないかな」
「まあ、そうかもな」
ユウナの言葉に、俺は同意せざるを得なかった。
俺とユウナには一つの共通点があった。それは、困った人を放っておけない、というお人好しであるという点だ。
ユウナは《《あちら》》にいた頃から誰にでも優しくて、誰かが困っていれば手を差し伸べていたし、面倒で人がやりたがらない事を進んでやっていた。そのせいか、異性同棲問わず皆から好かれていたし、教師からの信頼も得ていた。
彼女の場合はお人好しが過ぎる面もあった気がしなくもない。ただ、そんな性格だったからこそ、その美しい外見と相まって〝四宮高校の聖女様〟などと呼ばれていたのだと思う。
ユウナ程ではなかったにせよ、俺も似たような要素を持ち合わせていた。道端でご老人が困っていたり、誰かがいじめられていたりしたら、思わず自分から声を掛けてしまう様な性格だった。
友人達はそんな俺を見て偽善的だ、と言っていたけれど、偽善なんてつもりはさらさらなくて、勝手に身体が動いてしまうのだ。それが偽善だと言うなら、全ての善行が偽善になってしまうのではないだろうか。兎角、そういう性格なのだから仕方ない。
それは、異世界に来てからも変わらなかった。困っている人を見ると、ついつい手を差し伸べてしまっていたのだ。〝勇者〟や〝聖女〟としての力を得た分、助けられる人が増えたというのも関係しているだろう。その人助けの為に無理をする事も少なくなかった。
ただ、そうした人助けが功を奏して物事が好転する、といった事も少なくなかった。誰かからの恩の御蔭で別の誰かの信頼を得て、そこから次の物事へと発展していった。俺達はそうした連鎖の中で仲間と出会い、多くの人からの助けを得て、遂には魔王討伐へと至ったのである。
ユウナの言う通り、お人好しな性格をしていなかったら、魔王のもとまで辿り着けなかったのだ。
「さて、ここらでいいかな。ユウナ、結界を頼む」
「うん」
村からある程度離れたところで馬の手綱を樹木に括りつけて固定すると、馬車ごとユウナに結界を張ってもらった。
これは、誰かに積み荷を取られない為だ。いくら俺達がお人好しだと言えども、報奨金を盗られたら正気ではいられないし、かといって馬車で敵地には乗り込みたくはない。
馬車ごと村に置いてきてもよかったのだが、念には念を、である。いくら俺達がお人好しだからといって、誰彼問わず完全に信じているわけではないのだ。というか、異世界に来た頃はそれで物や金を盗られたり騙されたりと痛い目に遭っているので、最低限の警戒はしようとユウナと決めたのである。
困っている人は助ける、だが全ての人間を信用するわけではない──そんなところだろうか。
そう言った意味では、俺はもうユウナ以外の人間を完全には信用できなくなっているのかもしれない。法王や召喚士も結局嘘を吐いていたわけだし、彼女以外に真の味方を見いだせなくなっていた。
「エイジくん、終わったよ」
結界を張り終えたユウナが、こちらを向いて優しく微笑んだ。
なんとなしに向けた笑顔なのだろうけど、それでも不意を突かれてどきっとしてしまう。いや、何をどきっとしてるんだよ。もう付き合ってるのに。付き合ってからキスもまだしてないけど。
「あ、ああ。ありがとう」
動揺を隠す為にそっけなく返事をする。
ユウナはきょとんとして首を傾げているが、気にしない気にしない。何か言おうものならまた察せられてからかわれてしまう。
「よし、じゃあ行くか」
「うん」
俺達は頷き合うと、共に魔力を足に込めてから──同時に地面を蹴り上げた。
風と同化したかの様な速度で、草原を駆け抜けていく。川を跳び越え、木々の枝を跳び移って、俺達が通った後は強風でも吹いたかの様に草木が靡いていた。まるでアクション漫画の様な移動だ。
これは魔力で足の筋力を補強して移動を加速する〈加速魔法〉。文字通りに動作を加速させる魔法なのだが、正確に言うと、魔力で運動ベクトルを強める事で加速している。
魔力をずっと消費し続けるのが難点だが、通常ならどれほど時間が掛かるかわからないような距離をすぐに移動できてしまうので、急いでいる時やスピードを求められる戦いではよく使う魔法だ。
「あっ。あのお城かな?」
「だろうな」
暫く進んでいくと、俺達の目的地──自称義勇軍のアジトが見えてきた。どうやら、廃墟の城をそのまま住処にしているらしい。
さてさて。もう御勤めは終えているはずの〝勇者〟と〝聖女〟による人助けの始まりだ。
馬車を御しながら、嘆息と共にぼやいた。
今俺達は、村人達から自称義勇軍のアジトの場所を聞くや否や、ユウナと共に連中の討伐へと向かっていた。
争いに、戦い……俺の思い描いていた青春スローライフと全然違うのだけれど、一体どういう事だ。
「自分から言い出したくせに」
気怠そうにぼやく俺を見て、ユウナはくすくすと可笑しそうに笑っていた。
「だって、仕方ないだろ? あんな光景見せられて、見捨てられるかよ」
もう一度溜め息を吐いてから、ユウナに反論する。
ああして困っている人を見て自分達の青春を優先できる程、独善的な人間ではなかった。きっと、自己嫌悪に陥って青春どころではなくなっていたはずだ。
それはユウナだって同じはずで、俺が言い出していなければ彼女から同じ事を提案されていたであろう事は間違いない。
「知ってる。っていうかさ……私達がこういう性格じゃなかったら、きっと魔王まで辿り着けなかったんじゃないかな」
「まあ、そうかもな」
ユウナの言葉に、俺は同意せざるを得なかった。
俺とユウナには一つの共通点があった。それは、困った人を放っておけない、というお人好しであるという点だ。
ユウナは《《あちら》》にいた頃から誰にでも優しくて、誰かが困っていれば手を差し伸べていたし、面倒で人がやりたがらない事を進んでやっていた。そのせいか、異性同棲問わず皆から好かれていたし、教師からの信頼も得ていた。
彼女の場合はお人好しが過ぎる面もあった気がしなくもない。ただ、そんな性格だったからこそ、その美しい外見と相まって〝四宮高校の聖女様〟などと呼ばれていたのだと思う。
ユウナ程ではなかったにせよ、俺も似たような要素を持ち合わせていた。道端でご老人が困っていたり、誰かがいじめられていたりしたら、思わず自分から声を掛けてしまう様な性格だった。
友人達はそんな俺を見て偽善的だ、と言っていたけれど、偽善なんてつもりはさらさらなくて、勝手に身体が動いてしまうのだ。それが偽善だと言うなら、全ての善行が偽善になってしまうのではないだろうか。兎角、そういう性格なのだから仕方ない。
それは、異世界に来てからも変わらなかった。困っている人を見ると、ついつい手を差し伸べてしまっていたのだ。〝勇者〟や〝聖女〟としての力を得た分、助けられる人が増えたというのも関係しているだろう。その人助けの為に無理をする事も少なくなかった。
ただ、そうした人助けが功を奏して物事が好転する、といった事も少なくなかった。誰かからの恩の御蔭で別の誰かの信頼を得て、そこから次の物事へと発展していった。俺達はそうした連鎖の中で仲間と出会い、多くの人からの助けを得て、遂には魔王討伐へと至ったのである。
ユウナの言う通り、お人好しな性格をしていなかったら、魔王のもとまで辿り着けなかったのだ。
「さて、ここらでいいかな。ユウナ、結界を頼む」
「うん」
村からある程度離れたところで馬の手綱を樹木に括りつけて固定すると、馬車ごとユウナに結界を張ってもらった。
これは、誰かに積み荷を取られない為だ。いくら俺達がお人好しだと言えども、報奨金を盗られたら正気ではいられないし、かといって馬車で敵地には乗り込みたくはない。
馬車ごと村に置いてきてもよかったのだが、念には念を、である。いくら俺達がお人好しだからといって、誰彼問わず完全に信じているわけではないのだ。というか、異世界に来た頃はそれで物や金を盗られたり騙されたりと痛い目に遭っているので、最低限の警戒はしようとユウナと決めたのである。
困っている人は助ける、だが全ての人間を信用するわけではない──そんなところだろうか。
そう言った意味では、俺はもうユウナ以外の人間を完全には信用できなくなっているのかもしれない。法王や召喚士も結局嘘を吐いていたわけだし、彼女以外に真の味方を見いだせなくなっていた。
「エイジくん、終わったよ」
結界を張り終えたユウナが、こちらを向いて優しく微笑んだ。
なんとなしに向けた笑顔なのだろうけど、それでも不意を突かれてどきっとしてしまう。いや、何をどきっとしてるんだよ。もう付き合ってるのに。付き合ってからキスもまだしてないけど。
「あ、ああ。ありがとう」
動揺を隠す為にそっけなく返事をする。
ユウナはきょとんとして首を傾げているが、気にしない気にしない。何か言おうものならまた察せられてからかわれてしまう。
「よし、じゃあ行くか」
「うん」
俺達は頷き合うと、共に魔力を足に込めてから──同時に地面を蹴り上げた。
風と同化したかの様な速度で、草原を駆け抜けていく。川を跳び越え、木々の枝を跳び移って、俺達が通った後は強風でも吹いたかの様に草木が靡いていた。まるでアクション漫画の様な移動だ。
これは魔力で足の筋力を補強して移動を加速する〈加速魔法〉。文字通りに動作を加速させる魔法なのだが、正確に言うと、魔力で運動ベクトルを強める事で加速している。
魔力をずっと消費し続けるのが難点だが、通常ならどれほど時間が掛かるかわからないような距離をすぐに移動できてしまうので、急いでいる時やスピードを求められる戦いではよく使う魔法だ。
「あっ。あのお城かな?」
「だろうな」
暫く進んでいくと、俺達の目的地──自称義勇軍のアジトが見えてきた。どうやら、廃墟の城をそのまま住処にしているらしい。
さてさて。もう御勤めは終えているはずの〝勇者〟と〝聖女〟による人助けの始まりだ。