「ちょっと、離して下さい! 私、人を待っているんです!」
ならず者子分がユウナの手を掴んだ時に、彼女は如何にも一般人風な装いで手を振りほどこうとする。
が、その手は振りほどかれず、ならず者は下卑た顔で彼女を引っ張っているだけだ。
──あれ?
いつものユウナなら、あれだけ接近されたなら魔力で衝撃波を四方に放って吹っ飛ばすのだけれども、まるで一般女子の様に困っている。が、どこかその装いは演技じみている様にも感じた。
そこで、ユウナが視界の隅に俺を発見すると──
「助けて、瓜生くんッ」
まるで、囚われのヒロインの様な迫真の演技で、俺の苗字を呼んだ。
表情は如何にも攫われそうな女学生といった感じを作っているが──その演技に満足がいったのか、目元だけ笑っている。
あー、もしもしユウナさん? あなたもしかして、これも青春イベントだかの一つにしようとしていませんか?
いや、まあ……こんな感じのイベントはラブコメ漫画とかでもありがちだけど、何なら異世界転生アニメでワンクールで三話そんな感じでヒロインを助けた感じのやつのもあったくらいだけど、あの……我々、〝勇者〟と〝聖女〟ですよね? あなた余裕で自力でその男達を吹っ飛ばせませんこと? 何なら魔王にも大ダメージ与えてましたよね?
そうは思うものの、ユウナは相変わらず自力で逃げる気はなさそうであるし、目元に笑みを浮かべたままである。
──はいはい、わかりました、わかりましたよ。付き合ってやろうじゃないの、その茶番。
そもそも俺を名前ではなく苗字で読んでいるのが、茶番の証拠である。俺が『エイジ』だとわかれば、この男達も俺達が〝勇者〟と〝聖女〟であると気付く。それをわかった上で、彼女は俺を『瓜生』と読んだのだ。
全く、大した女優兼脚本家な聖女様である。
俺は「わかったよ」と溜め息混じりでユウナに頷いて見せると、彼女は微笑み『ありがと』と唇だけ動かしたのだった。
「あー、お取込み中のとこ申し訳ない。その子、俺のツレなんだ。悪いけど、その手を離してくれないか?」
俺はいまいちやる気のない声色で、それっぽい台詞を言ってみせる。
ユウナはそれでも満足なのか、嬉しそうにしていた。
いや、こんなのでいいのかよ。めちゃくちゃテキトーな台詞だぞ、今の。感情もほぼ込めてないし。
「おお? なんだあ色男。この女と同じ変な服着やがって。どこの田舎もんだ? ぎゃばばばば!」
「ほっせえ身体しやがって。そんな身体で俺らに勝てるとでも思ってやがんのかぁ?」
「女の前でミンチにしてやるぜええ!」
ならず者達が、どこで雇われた劇団員なのかと思うくらいに場面に合った台詞を言う。
もうお前らの方がプロだよ。いや、こいつらにとっては茶番でもなく大真面目なのはわかっているのだけれども。
ユウナはユウナで「きゃー助けてー」と棒読みで言ってるし。何なんだこの空間は。アホか。アホしかいないのか。
「なあ、お前ら。ほんとにその、怪我させたくないからそのまま回れ右して帰って欲しいんだ。力の加減が難しくてさ」
無駄だとわかっていながら、俺は闘気を発してから警告をする。
この世界にレベルやステータスなんてものはないが、強者同士はこの闘気や魔力の大きさを見て相手の力量を計る。このならず者達は特別訓練を積んでい無さそうなので、間違いなく俺と彼らでは『戦闘力五か、ゴミめ』ぐらい差があるだろう。うっかりと力を入れ間違えれば、殺してしまい兼ねないのだ。
さすがにこんな奴らと言えども、俺達の青春ごっこの為に命を落としたとなれば、不憫だ。
だからこそ、この闘気の差に気付いて引いてくれ──と願ってはみたものの、「力の加減だって? それは俺達の台詞だろうがぁ!」などと言いながら笑っていた。闘気の大きさに気付いた者はいなさそうだ。
──あー、ダメだこりゃ。マジでこいつら見掛け倒しで闘気を扱える奴すらいないのか。
俺は内心でもう一度大きな溜め息を吐く。もうげんなりだ。
少しでも戦いを知っている者がいれば、俺の放った闘気で実力差がわかるはずである。だが、訓練を積んでいない彼らにはその闘気の大きささえも見えていないのだった。
まあ、これは異世界だけでなく現実世界でも起きる事だ。ある程度武術や武道、格闘技を経験していれば対面しただけで相手と自分の力量差を見抜けるが、素人だとそれがわからなくて喧嘩を売ってはいけない人にうっかり喧嘩を売ってしまって大怪我をするアレ。魔法やら闘気やらはあるが、そのあたりの動物的な本能に関しては異世界でも現実世界でも大差ないらしい。
──はあ、もう。なんで今更弱い者いじめしないといけないんだよ。
そうは思いつつも、好きな女の子を悪漢達から守るシチュエーションは、俺も嫌いではない。
それに、声を掛けられたのがユウナだから良かったものの、これが他の女の子だったらこのまま連れ攫われていたかもしれない。このならず者達にも熱いお灸を据えてやる必要があるだろう。
──さて、と……んじゃ、いつか漫画で見た技でもやってみるかな。
俺はそう決めると、右手に闘気を集中させて親指を握り込んで、先頭にいたリーダーらしき者の額目掛けて──親指を弾いたのだった。
ならず者子分がユウナの手を掴んだ時に、彼女は如何にも一般人風な装いで手を振りほどこうとする。
が、その手は振りほどかれず、ならず者は下卑た顔で彼女を引っ張っているだけだ。
──あれ?
いつものユウナなら、あれだけ接近されたなら魔力で衝撃波を四方に放って吹っ飛ばすのだけれども、まるで一般女子の様に困っている。が、どこかその装いは演技じみている様にも感じた。
そこで、ユウナが視界の隅に俺を発見すると──
「助けて、瓜生くんッ」
まるで、囚われのヒロインの様な迫真の演技で、俺の苗字を呼んだ。
表情は如何にも攫われそうな女学生といった感じを作っているが──その演技に満足がいったのか、目元だけ笑っている。
あー、もしもしユウナさん? あなたもしかして、これも青春イベントだかの一つにしようとしていませんか?
いや、まあ……こんな感じのイベントはラブコメ漫画とかでもありがちだけど、何なら異世界転生アニメでワンクールで三話そんな感じでヒロインを助けた感じのやつのもあったくらいだけど、あの……我々、〝勇者〟と〝聖女〟ですよね? あなた余裕で自力でその男達を吹っ飛ばせませんこと? 何なら魔王にも大ダメージ与えてましたよね?
そうは思うものの、ユウナは相変わらず自力で逃げる気はなさそうであるし、目元に笑みを浮かべたままである。
──はいはい、わかりました、わかりましたよ。付き合ってやろうじゃないの、その茶番。
そもそも俺を名前ではなく苗字で読んでいるのが、茶番の証拠である。俺が『エイジ』だとわかれば、この男達も俺達が〝勇者〟と〝聖女〟であると気付く。それをわかった上で、彼女は俺を『瓜生』と読んだのだ。
全く、大した女優兼脚本家な聖女様である。
俺は「わかったよ」と溜め息混じりでユウナに頷いて見せると、彼女は微笑み『ありがと』と唇だけ動かしたのだった。
「あー、お取込み中のとこ申し訳ない。その子、俺のツレなんだ。悪いけど、その手を離してくれないか?」
俺はいまいちやる気のない声色で、それっぽい台詞を言ってみせる。
ユウナはそれでも満足なのか、嬉しそうにしていた。
いや、こんなのでいいのかよ。めちゃくちゃテキトーな台詞だぞ、今の。感情もほぼ込めてないし。
「おお? なんだあ色男。この女と同じ変な服着やがって。どこの田舎もんだ? ぎゃばばばば!」
「ほっせえ身体しやがって。そんな身体で俺らに勝てるとでも思ってやがんのかぁ?」
「女の前でミンチにしてやるぜええ!」
ならず者達が、どこで雇われた劇団員なのかと思うくらいに場面に合った台詞を言う。
もうお前らの方がプロだよ。いや、こいつらにとっては茶番でもなく大真面目なのはわかっているのだけれども。
ユウナはユウナで「きゃー助けてー」と棒読みで言ってるし。何なんだこの空間は。アホか。アホしかいないのか。
「なあ、お前ら。ほんとにその、怪我させたくないからそのまま回れ右して帰って欲しいんだ。力の加減が難しくてさ」
無駄だとわかっていながら、俺は闘気を発してから警告をする。
この世界にレベルやステータスなんてものはないが、強者同士はこの闘気や魔力の大きさを見て相手の力量を計る。このならず者達は特別訓練を積んでい無さそうなので、間違いなく俺と彼らでは『戦闘力五か、ゴミめ』ぐらい差があるだろう。うっかりと力を入れ間違えれば、殺してしまい兼ねないのだ。
さすがにこんな奴らと言えども、俺達の青春ごっこの為に命を落としたとなれば、不憫だ。
だからこそ、この闘気の差に気付いて引いてくれ──と願ってはみたものの、「力の加減だって? それは俺達の台詞だろうがぁ!」などと言いながら笑っていた。闘気の大きさに気付いた者はいなさそうだ。
──あー、ダメだこりゃ。マジでこいつら見掛け倒しで闘気を扱える奴すらいないのか。
俺は内心でもう一度大きな溜め息を吐く。もうげんなりだ。
少しでも戦いを知っている者がいれば、俺の放った闘気で実力差がわかるはずである。だが、訓練を積んでいない彼らにはその闘気の大きささえも見えていないのだった。
まあ、これは異世界だけでなく現実世界でも起きる事だ。ある程度武術や武道、格闘技を経験していれば対面しただけで相手と自分の力量差を見抜けるが、素人だとそれがわからなくて喧嘩を売ってはいけない人にうっかり喧嘩を売ってしまって大怪我をするアレ。魔法やら闘気やらはあるが、そのあたりの動物的な本能に関しては異世界でも現実世界でも大差ないらしい。
──はあ、もう。なんで今更弱い者いじめしないといけないんだよ。
そうは思いつつも、好きな女の子を悪漢達から守るシチュエーションは、俺も嫌いではない。
それに、声を掛けられたのがユウナだから良かったものの、これが他の女の子だったらこのまま連れ攫われていたかもしれない。このならず者達にも熱いお灸を据えてやる必要があるだろう。
──さて、と……んじゃ、いつか漫画で見た技でもやってみるかな。
俺はそう決めると、右手に闘気を集中させて親指を握り込んで、先頭にいたリーダーらしき者の額目掛けて──親指を弾いたのだった。