まあ、彼は『できれば人間の女子がいい。ってか、凛ちゃんみたいな夜血の乙女だったら最高』とストライクゾーンが極端に狭いので、それも彼の恋愛が成就しない一因となっているのだろう。

「鞍馬くん、優しいしかっこいいのになあ」

 言い合い中のふたりの傍らで、凛が小さな声で独りごちる。しかしその声が届いていたらしく、伊吹と鞍馬はハッとしたような面持ちをして凛に視線を合わせた。

「でしょでしょ!? やっぱり凛ちゃんはわかってるう! 俺、優しいしかっこいいよねっ?」

 まずは鞍馬が凛に詰め寄ってきた。その勢いのよさにたじたじになりながらも、凛は頷いた。

「う、うん。そう思うよ」

「さっすが凛ちゃん! 優しいしかっこいい俺はその気になれば彼女なんてすぐにできちゃうよねっ」

 目と鼻の先まで顔を近づけて再度同意を求めてくる鞍馬だったが、さすがにそんなことまでは保証できない。

「ええっと……」

 凛が返答を渋っていると。

「おい鞍馬。どさくさに紛れて凛に近寄りすぎだ」

 鞍馬の頭をむんずと(つか)んで凛から引き離した伊吹は、冷淡な声で言う。やけにむきになっている様子だが、ひょっとしたら嫉妬しているのだろうか。

 そして鞍馬を睨みつけながらこう続けた。

「優しい凛はお前を慰めているだけだ。まったく、すぐ調子に乗るんだから」

「あ、いえ。私は本当に鞍馬くんを――」

「は!? 調子に乗ってるのはどっちなんだよ!?」

 本心から鞍馬が優しくてかっこいいと思っていると伝えようとした凛だったが、小さな声だったためか、言葉の途中で鞍馬に遮られてしまう。