匂い消しのことだけを考えれば、唇を合わせる口づけは三日に一回で十分なのだが、ふたりの愛が深まってきた最近では毎日のようにふたりは唇を重ねていた。

 毎回、圧倒的な多幸感を感じられるその行為が日々行われることを、凛は心底(うれ)しく思っていたが。

 ――だ、だけど今日の伊吹さんのキス、なんだかちょっと、ううん、かなり激しい気がする……。

 しっかりと呼吸をする暇がないくらの口づけに、だんだん凛の頭はぼんやりとしてきた。伊吹のこの勢いだと接吻(せっぷん)だけでは済まないのではないかという気さえしてくる。

 しかしうまく頭が回らず、ただ伊吹に身を任せた時だった。

「ただいまー! お土産においしそうなカステラ買ってきたよーん。今からみんなで食べ……ん?」

 なんと居間の障子が勢いよく開き、満面の笑みを浮かべた鞍馬が入ってきた。

 しかし、凛を抱き寄せて濃厚な口づけをしている伊吹を目撃してしまった彼は、表情を一変させる。

「……おい。真っ昼間からなにしてんだ、伊吹」

 恨めしそうに伊吹を(にら)み、低い声で言う鞍馬。一瞬ばつが悪そうに笑って凛への抱擁をやめた後、伊吹は真顔になってこう告げた。

「なんか文句あるのか」

「あるわ! ひとりもんの俺に対する当てつけかよっ」

 鞍馬は伊吹に詰め寄る。

 凛は苦笑いを浮かべることしかできないが、相変わらず伊吹はクールな顔を崩さなかった。

「知るかそんなこと。妻となにをしていようが俺の勝手だろう」

「うっせー! 俺をこれ以上惨めにさすなっ。くっそうらやましいんじゃー!」

 さぞ悔しそうに鞍馬が叫ぶ。