例え御朱印帳の持ち主が人間であっても有効とされるその契り。百年前の夜血の乙女であり、伊吹の祖父の妻であった(いばら)()(どう)()も、数多の御朱印を集めあやかしたちから一目置かれる存在となったと言い伝えられている。

 凛の御朱印帳にはまだ四つしか印が押されていない。

 あやかしたちから認められ、『私は鬼の若殿である伊吹の妻だ』と胸を張るには、たくさんの御朱印を集めてからではないと難しいだろう。

 伊吹も凛のその意向には理解を示していて、『夫婦らしいことができるのは、御朱印を集めてからだな』と以前に言っていた。

 だから、自分たちが子供を持つのはまだまだ先になるだろうと考えていたし、伊吹との触れ合いはいまだに口づけどまりだ。

 恋愛経験が皆無だった凛は、伊吹との子供を作ると想像しただけで赤面してしまうくらい初心(うぶ)だった。

 そんな自分をかわいいと愛でてくれる伊吹だったが。

 ――このままでは、いつ十分な数の御朱印を集められるかわからないよね……。だいたい御朱印をいくつ集めたらいいのかさえ見当もつかないし。すごく時間がかかってしまうかも。

 たまたま今までは御朱印の持ち主が気のいいあやかしばかりだったので、うまくいっていた。

 しかし基本的にあやかしは偏屈な変わり者ばかり。今後はそう簡単にはいかないだろうというのが、伊吹と凛の共通認識だった。

 もし何十年もかかってしまったらどうしようと不安になる。下手をすれば、自分が妊娠するのが難しくなる年齢になってしまうかもしれない。

 ――本当に、このままでいいのかな。

 そんなふうに凛が焦っていると。