「そうだ。妖力の強いあやかしの中にも古来種寄りの考えがある者もいるのだとか。御朱印持ちのあやかしや、人間界で言う警察にあたる奉行所のあやかしの中にもな」

「えっ……!」

 平和そうに見える最近のあやかし界と人間界の裏側でそんな状況になっていたことを今初めて知り、身震いする。

「奉行所がきちんと機能していれば、鬼門の警備が緩くなるはずなどないのだ。……おそらく古来種寄りの岡っ引きが、なんらかの事情でそれを黙認しているのではないかと俺は考えている」

「なるほど……」

 古来種は人間を下等生物だと考えている。

 鬼門の警備を緩くし、あやかしが人間たちをかどわかしていたとしても『以前の正しい姿に戻っただけ』という思考なのだろう。

「もしそうだとしたら、俺は鬼の若殿としてそれを正さねばならない。あやかしが人間に迷惑をかけていいはずはないのだ。……凛の妹の件がなかったとしてもな。もちろん、愛する妻の身内を救うのが最優先だが」

「ありがとうございます……!」

 伊吹の力強い言葉に感極まって、凛は改めて礼を言う。

 伊吹は愛おしそうに目を細めて凛の頭を優しく撫でた後、再び真剣な表情になって口を開いた。

「たぶん、凛の妹はまだ生きているはずだ。人間の若い女性はあやかしにとって貴重だからな。(こう)事家(ずか)に売られているか、いかがわしいところで働かされているか……。どちらにしろ食べられている可能性は低いだろう」

「そうなのですね……!」

 ひょっとしたらもうあやかしに食われているのではないかと想像していた凛は、心から(あん)()した。