「宣言のおかげで、この百年間あやかしはとても穏やかになった。まあ、中には人間を下等なものだと信じている者も多いが……。俺はまったくそう思わないし、鞍馬や火照のように、人間の技術や感性なんかをむしろ自分たちよりも優れていると崇める者だって出てきている」

 それは凛も肌で感じていた。特にさまざまなあやかしが通りを闊歩する繁華街に出た時になんて、顕著に表れている。

 若いあやかしが人間界で流行っているファッションを身にまとっていて、年配のあやかしはそれを侮蔑するように見ている光景を、凛は何度も目にしていた。

 そして最近凛も知ったのだが、昔は人肉を食らう種だったあやかしですら、その欲求が失われた個体も現れているらしい。

 百年も人間を食らっていなかったことで、そのようにあやかしの体が進化していっているのかもしれないという話だった。

「だがな。最近、『異種共存宣言』に反発するあやかしが陰で徒党を組んでいるという噂がある」

「反発するあやかし……?」

 意外な言葉に凛が聞き返すと、伊吹は神妙な面持ちで頷く。

「ああ。昔の好き勝手に人間を(じゅう)(りん)していた頃が、本来のあやかしの姿だという意見の者たちの集まりだよ。そいつらは古来の獰猛(どうもう)なあやかしに戻ろうという思想を持っているため、『()来種(らいしゅ)』という俗称がついている」

「古来種……」

 初めて聞く単語だったので、凛は思わず呟く。

 獰猛なあやかしと言われ、人間を食らっている姿を想像し、生唾を飲み込んだ。