嬉しさが込み上げてくる。自分の複雑な感情を伊吹が理解してくれたことが、心から喜ばしかった。
「実はな。つい昨日、瓢から人間界とあやかし界をつなぐ鬼門の警備が緩くなっているらしいという噂を聞いたんだ」
「えっ……。そうなのですか? では、もしかして今回の誘拐事件にはあやかしが絡んでいる可能性が……?」
察した凛が尋ねると、伊吹は頷く。
「まだ決まったわけではないが、そうかもしれない。もう少し情報を集めてから調査を開始しようと思っていた。しかし凛の妹が被害に遭っているとなると、早く行動した方がよさそうだな」
「そうしていただけると嬉しいです」
「うむ。そして瓢の話を聞いた後に自分でもいろいろ考えてみたのだが、この件にはひょっとすると最近のあやかし界の複雑な事情が絡んでいる可能性がある」
伊吹は眉間に皺を寄せて、堅い面持ちになった。
「複雑な事情、ですか?」
「ああ。百年前にあやかしと人間の間に結ばれた『異種共存宣言』については、凛も知っていると思うが……」
「はい。人間とあやかしは平等であり、あやかしが人間を食らうこと、人間から財産を搾取することを禁じる条約ですね」
あやかし界でも人間界でも、幼児の頃に教えられる常識だ。
この条約が締結される以前は、あやかしが気まぐれに人間を食らい、金品を自由に強奪していた。
言わば人間はあやかしの奴隷のような状態だった。
しかし百年前のあやかしの頭領であった鬼の酒呑童子が、人間と有効な関係を結ぶことを決断し、『異種共存宣言』を人間側と結んだのだ。
そしてその偉大な酒呑童子という鬼は、伊吹の実の祖父である。
「実はな。つい昨日、瓢から人間界とあやかし界をつなぐ鬼門の警備が緩くなっているらしいという噂を聞いたんだ」
「えっ……。そうなのですか? では、もしかして今回の誘拐事件にはあやかしが絡んでいる可能性が……?」
察した凛が尋ねると、伊吹は頷く。
「まだ決まったわけではないが、そうかもしれない。もう少し情報を集めてから調査を開始しようと思っていた。しかし凛の妹が被害に遭っているとなると、早く行動した方がよさそうだな」
「そうしていただけると嬉しいです」
「うむ。そして瓢の話を聞いた後に自分でもいろいろ考えてみたのだが、この件にはひょっとすると最近のあやかし界の複雑な事情が絡んでいる可能性がある」
伊吹は眉間に皺を寄せて、堅い面持ちになった。
「複雑な事情、ですか?」
「ああ。百年前にあやかしと人間の間に結ばれた『異種共存宣言』については、凛も知っていると思うが……」
「はい。人間とあやかしは平等であり、あやかしが人間を食らうこと、人間から財産を搾取することを禁じる条約ですね」
あやかし界でも人間界でも、幼児の頃に教えられる常識だ。
この条約が締結される以前は、あやかしが気まぐれに人間を食らい、金品を自由に強奪していた。
言わば人間はあやかしの奴隷のような状態だった。
しかし百年前のあやかしの頭領であった鬼の酒呑童子が、人間と有効な関係を結ぶことを決断し、『異種共存宣言』を人間側と結んだのだ。
そしてその偉大な酒呑童子という鬼は、伊吹の実の祖父である。