そんなふうに凛が考えられるようになったのも、つい最近だった。人間界にいた頃は毎日生きるのに必死で、蘭の心情など慮る暇などなかった。

 しかし伊吹に愛され、鞍馬や紅葉といった優しいあやかしたちと触れ合っているうちに、あの頃の自分を取り巻く環境を一歩引いた目で思い返せるようになったのだ。

 実際に学校や外出先で見かける蘭は、友達と仲睦まじそうに話していたし、幼児や小動物にも優しく接していた。

 きっとあれが本来の蘭の姿なのではないか。

 彼女が両親の影響をまったく受けなかったとしたら、自分たちはもっと違う姉妹になれたのではないか。

 最近の凛は、そう考えるようになっていた。

 伊吹は凛の話を黙って聞いた後、真剣な面持ちになって口を開いた。

「凛に隠し事はしたくないから、正直に言おう。長い間凛を虐げていた妹君が、俺はとても憎い」

「……はい」

 伊吹のその言葉は意外でもなんでもなかった。むしろ、自分を大切に思ってくれているがゆえだと心から承知している。

 この件に首を突っ込むのは危険だ、妹のことなんて忘れろ。

 伊吹にそう告げられるのを凛は覚悟したが。

「しかし凛が妹を助けたいと望むのなら、俺は全力で手を貸そう。彼女は血のつながった、君の家族なのだからな」

 伊吹は頬を緩ませ、優しい声でそう続けた。

「本当ですか!?」

 妹のことを諦める覚悟すらしていた凛は、伊吹の言葉がにわかには信じられない。すると伊吹は笑みを深くした。

「もちろんだ。凛の望みならば、俺はなんでも(かな)えたい」

「伊吹さん、ありがとうございます……!」