「もしかしたらもう無事ではないかもしれないし、彼女を助けるためには凛が危ない目に遭う可能性だって少なくない。妹は、両親と共に君につらく当たっていたようだな? それも、生まれてからずっと。そんな妹でも君は助けたいのか? 危険を冒す必要が出てきたとしても」

 伊吹にそう問われ、凛は蘭と過ごした日々を思い出す。

 確かに伊吹の言う通りだった。

 凛が夜血の乙女と発覚するまで、『あやかしに取り()かれた、不吉な赤い目を持っている子』と罵る両親と共に、蘭は凛を虐げていた。

 身の回りの世話は当然のようにやらされたし、少しでも気に入らないことがあると理不尽な八つ当たりをしてくるのも日常茶飯事だった。

 伊吹の問いに、凛は回答を一瞬逡巡(しゅんじゅん)した。蘭に対しては、自分でも度し難い複雑な感情を抱いていたから。

 ――だけどやっぱり、伊吹さんにはわかってほしい。

「両親に対しては正直関心がないですし、もう家族とも思っていません。ですが、蘭……妹を、私は心から憎めないのです」

 恐る恐る言葉を紡ぐと、伊吹は柔和な面持ちで凛を(のぞ)き込むように見つめてくる。恐れずなんでも話してごらんといった彼の気遣いを感じられた。

「……どうしてだい?」

「蘭は生まれた時から、あの両親に育てられました。私を『気味が悪い』『あやかしが憑いている子』と罵る両親に。いわば蘭は、両親に洗脳されていたと言っても過言ではありません。物心つく前から私が粗末に扱われる光景を見ていたのです。蘭は私に対して正常な判断ができない状態だったのだと思うんです」