凛が廊下に出ると、伊吹はすぐに障子を閉めた。

 居間からは「こんなにかわいい人間の女の子を誘拐するなんて……!」とか、「許せねー! なんて不届き者だ!」といった、鞍馬と火照の憤慨した声が聞こえてきた。

 ふたりとも、凛の様子にはまったく気づいていなかったようだ。

「伊吹さん、あ、あの……」

 妹の件について説明しようと凛は口を開くが、言葉がうまく出てこない。すると伊吹は、ゆっくりと深く頷いた。

「わかっている。さっき画面に映し出されていたのは、君の妹だな」

「えっ……! 伊吹さん、蘭を覚えていらっしゃったのですか?」

 夜血の乙女の自分を鬼の花嫁として伊吹が迎えに来た場には、蘭や両親も帯同していた。そのため一応伊吹は蘭と顔を合わせたことがある。

 ただ、伊吹はすぐに自分をあやかし界に連れていってしまったため、蘭の顔なんて覚えていないだろうと決め込んでいた。

「正直、うろ覚えだったが……。テレビの写真が凛に似ていたのと、凛の反応を見てわかったよ。それに凛の苗字は『柊』だったなと」

 あやかしには苗字を持つ習慣がないため、伊吹の嫁になった時点で凛は姓を捨てていた。

 しかし伊吹は、愛する妻に関することをしっかりと記憶していたのだ。

「そうだったのですね。ええ、伊吹さんのおっしゃる通り、行方不明になっているあの子は、私の実の妹です……」

 消え入るような声で凛は言う。

 今頃蘭はどうしているのだろう。危険な目に遭ってはいないか。……命は落としていないのか。

 悪い想像ばかりが凛の頭を駆け巡る。

 すると伊吹は、なぜか渋い顔をしてこう尋ねた。

「助けたいのか、妹を」

「え……」