『ああ。あやかしが鬼門を自由に出入りして、人間をかどわかしてるんちゃうかって噂や。もともと門番に賄賂を渡して出入りする輩はいたようだけど、最近はあまりにも誘拐の件数が多すぎるんや』

 伊吹の想像した通りの内容を、瓢が口にする。そして彼は声を潜めて続けた。

『まあ、まだ噂の範囲やけどな。そやけどお前んとこはお凛ちゃん もおるし、一応伝えたまでや』

 瓢は、凛が人間だと知っている数少ないあやかしのひとりだ。もちろん周囲に漏らすつもりはなく御朱印集めも応援してくれている。

「……そうか。気にかけておく。ありがとう、瓢」

 その後、少しだけ世間話をして伊吹は瓢との電話を終えた。

 ――鬼門が機能していないかもしれない、か。

 鬼の若殿は、力の強い鬼たちを束ね、あやかし界の平穏を守る立場だ。表向きでは人間とあやかしが対等とされるこの時代で、あやかしが人間をさらうことなど、自分の目が黒いうちは見過ごすわけにはいかない。

 ――もし瓢の話が本当だとしたら。鬼の若殿としてそれは阻止せねばなるまい。

 しかしまだ、瓢の言う通り噂のレベルの話だ。本格的な調査に乗り出す前に、もう少し情報を集めなくては……と伊吹は考えたのだった。



 あくる日のこと。伊吹の屋敷には鞍馬の友人で()(でり)という、若い男性のあやかしが遊びに来ていた。

「なー鞍馬! 『(かえで)(ざか)』の新曲聴いたか!?」

「聴いた聴いた! PVも見たよっ。センターの里奈(りな)ちゃんめっちゃかわいいよな! ほら、これこれっ」