電話口から明るい声が聞こえてくる。

 商売人だからか、瓢は常に人当たりのよさそうな話し方をする。

 水を司るあやかしの蛟である瓢は、『白銀(はくぎん)温泉郷』という山奥の観光地で両親から引き継いだ温泉旅館を経営している。

 伊吹とは幼い頃からの友人で、心から信頼できるあやかしだった。

 凛が瓢の元に働きに行った時にはいろいろ手助けをしてくれた。また、『(りゅう)(れい)』の称号を持つ彼は凛の御朱印帳に押印しており、凛とは同胞の誓いを結んでいる。

「ああ。うちは皆元気だ。瓢はどうだ?」

『おかげさまで旅館は(にぎ)おうてんで。ほら、伊吹らが来た時に水龍が現れたやろ? だから水龍のご加護がいつも以上にもらえるパワースポットですって宣伝したら、口コミで広がってな~』

 温泉郷で過ごした日々を思い出す。

 あの時はいつもはおとなしくしているはずの水龍があるきっかけから暴れ回って大変だったが、凛と力を合わせてなんとか鎮められた。

 しかしそんなハプニングを利益に変えてしまうとは。さすが若くして旅館の旦那をやっているだけある。

「はは、相変わらず商魂たくましいな。……それで、電話の用件は?」

『あー、その話なんやけどな』

 伊吹が尋ねると、瓢の声のトーンが低くなった。真剣な話のようだと察して身構える。

『最近、人間界で行方不明事件が多いって話は伊吹も知ってるよな?』

「ああ。ニュースで何度か拝見したが」

 鬼の若殿という立場上、新聞や報道番組にはひと通り目を通している。