「ふっ。凛みたいなかわいい妻がいるのだから、当然調子に乗っているが?」

「はー!? 開き直りやがった! そのドヤ顔腹立つー!」

 また兄弟ゲンカをふたりが再開してしまい、凛は小さく嘆息する。

「俺だって、そのうち凛ちゃんみたいなかわいい人間の女の子と結婚するもんね! 今に見てろよっ」

 と、涙目になる鞍馬。その必死そうな表情は、伊吹との舌戦によってなかなかのダメージを受けているように見えた。

 なんだかだんだんかわいそうになってくる。

「く、鞍馬くん。そういえばお土産にカステラを買ってきたって言っていなかった? わ、私ぜひいただきたいな」

 話を逸らそうと凛が声をかけると。

「鞍馬も帰ってきたみたいだから、お茶を煎れたよ」

 ()(のみ)と急須をのせたお盆を持った国茂が、ちょうど居間に入ってきた。

 黒白のハチワレ柄のかわいらしい猫が作務衣を着て給仕してくれる光景は、何度見ても愛らしい。

「あ、ありがとう国茂! さ、四人でお茶とお菓子をいただきましょう」

 これ以上の口ゲンカを防ぎたくて、凛は普段より声を張って言う。

 鞍馬はハッとしたような顔をして「あ、そうだった! カステラカステラっと」と、カステラの包みをちゃぶ台の上に置く。

「人気の店でいつも行列ができてて、すぐに売り切れちゃうんだけどさ。今日はたまたま買えたんだよ~」

「そうなのか。ありがとう、鞍馬」

 先ほどの険悪な雰囲気は一変し、笑顔で包装紙を開ける鞍馬と、礼を述べる伊吹。

 いつものように収まった兄弟ゲンカに、凛はホッとした。