六回目の結花の命日がやってきた。

 その日の朝、俺は花束を二つ飾った。結花のぶんと、つばめのぶん。

「みゃあ」
 白と黒の斑模様が足に絡みついてくる。

「おぉ、腹減ったのか、ユイカ」

 小さなその後頭部を撫でてやると、ユイカは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らし始めた。穏やかな時間に、心が凪ぐ。
 花を愛でながら、少しだけ色を取り戻した部屋を眺める。
 
 あぁ、神様。
 きっとこの世のどこかにいる神様へ。
 ありがとう。
 俺は、あなたに感謝します。最後にもう一度、結花に会わせてくれて……つばめに巡り合わせてくれて、本当にありがとう。

 たとえ結花と添い遂げられない運命だとしても、俺は結花に出会えて、心から幸せだった。

 つばめと過ごせて、生きることの尊さを知った。
 
 俺はまだ、君を忘れられないけれど。
 でも、今は毎日がカラフルに色づいている。

 ずっと嫌いだったこの世界。
 君と出会わせてくれたこの世界が、君との思い出が詰まったこの町のことが、今ではすっかり大好きになった。

 またいつか、君に会えるその日が来るまで、俺はこの世界で精一杯生きていくことにするよ。

 風が花を撫でていく。
 風が花の香りを運んでくる。青い空。雲ひとつない秋晴れの空を見上げ、俺は眩しさに目を細めた。